すっかり彼のペースになっている。


 こちらの心をかき乱して、司の喜んでいる様子に、美桜はかっと熱くなった。


 思い切り手を伸ばし、司の胸元を押して距離を取った。
 
 このまま見つめていたら、確実にほだされる。



「遠慮します」

「なんだ、つまんないな」

 そう言って微笑した司は、小悪魔そのものだった。
 

 たちの悪い魔法にかかってしまいそうな感覚。
 
 鼓動が激しくなって、収まらない。


「それじゃ、君と俺は、何もないんだね」


 彼は、あのキスを覚えていない。


 覚えていたとしても、キスなんて、彼には大したことでもない。

 誰とでも気分で唇を交わし、喜ばせたり、ひどくしたりが当たり前。

 司はそういう人なのだろう。

 彼の言葉から、美桜はそう悟ると、静かに息を吐き出した。



「私は、喜んでも、泣かされてもいないです」



 そう、あなたと私は何でもない。


 ただ、キスしただけ。


 あなたが覚えていないキスをしただけ。