「それじゃ、挨拶はこのくらいにして、そろそろ仕事にしよう」

 伊崎の言葉に、スタッフたちはそれぞれの持ち場に散らばっていく。

 美桜も、宛がわれた自分のデスクに向かおうとした時。



「ちょっといい?」

「え……」


 突然、手首を掴まれた。

 驚いて振り向くと、司がじっと美桜を見つめている。


「あ、あの……」

 手首を握られたまま戸惑っていると、司は冷静な声で言った。


「来て」

 美桜の返事を待たず、司は手を引いて歩き出そうとした。


 当然、周りはざわつき始める。

 注目を浴びていることに気付いて、一瞬身を引いた。



「な…何ですか」

「いいから」


 ちっとも、よくない。


 そう思いながらも、彼の手を振りほどくことが出来なかった。