「じゃ次は、新人の挨拶に移ろうか」
 
 数名が自己PRを済ませ、美桜の番がやって来た。


「長浜美桜です。大学ではメディアビジネスを専攻してました」

 当たり障りのなく自己紹介を進めていく。


 適当にまとめて下がろうとしたとき。


「……」

 伊崎の隣にいた司と目が合った。

 思わず心臓が跳ね上がる。

 何かに気付いたか、それともただ興味を引かれて見つめているだけか。
 
どちらにしても、「今、目が覚めました」というような眼差しで、まっすぐ美桜を見つめている。


「どうぞ…よろしくお願いいたします」

 司の視線に、どきまぎとした美桜は、語尾をすぼめて言った。


 彼は自分のことを、あの夜、ホームでキスをした相手だと気付いたのだろうか。

 だとしたら、きっと司も驚いているに違いない。

 また会うとは思ってもみなかった、と。


 これから仕事がやりづらくなるかもしれない。

 美桜は額を曇らせた。



 挨拶は一周し、伊崎が再び口を開いた。

「これから約一週間は、新人は研修期間とする。その後はすぐに実践に移るから、研修中はできるだけ先輩たちの仕事を見て覚えるように」

 伊崎にそう言われ、新人たちは深く頷く。

「今うちは、二か月後に予定してる常設展示のイベントに向けて動いてる。デジタル遊園地というコンセプトのものだ。それには、新人たちにも加わってもらうから。いいアイデアがあればどんどん出してくれ、採用していく」


 伊崎の言葉に、どよめきが上がる。


 憧れの会社での初仕事が大きなプロジェクトになることを知り、新人たちの目が輝いた。