「ナンバー2とか言ってさ、俺にあれこれ押し付けようとしてるだけでしょ」

「あ、バレた?」

 再び、オフィスに笑いが起こる。


 ここでの司は生意気だけれど、愛されてもいるのだろう。

 一見、無礼でひんしゅくを買いそうな態度だが、スタッフはそんな司のマイペースには慣れているらしい。
 

 やがて司は、仕方ないなと、半歩前に出て顔を上げた。
 
 前髪が揺れて、例の綺麗な瞳が現れる。

 すると、皆の心を一瞬にして捕まえた。


「相沢司です」

 印象が変わる。

 さっきまで眠たげな空気をまとっていたのに。
 

 どうやら仕事モードに切り替わったらしい。
 
 きりっとした司の眼差しは、スタッフたちをはっとさせた。


「プログラマー、独身、甘党。低血圧なんで、午前中はあんまり話しかけないで」
 
 淀みなく自分のことを告げ「以上」と呟くが、


「他にもいろいろ注意事項あるだろ」

 仲間はニヤニヤと付け足す。


「新人、気を付けろよー。プログラミング中の司に近付くと、殺されるぞ」

 物騒な物言いに「まじすか」と固まる新人たち。


「集中してるときに邪魔するほうが悪い」

 案外、冗談でもないらしい。


 司は面倒くさくなったのか「次、行っちゃって」と手をひらひらさせる。

 そして、これ以上いじられたくないとばかりに引っ込んだ。

 予告通り、午前中はご機嫌斜めということだろう。


 一通り社員が自己紹介を終えると、伊崎は新人たちに目を向けた。