「デジタルテクノロジーの力で、人を幸せにする。それがうちの理念。そういう商品を一緒に作ってほしいと思っています」


 伊崎は新入社員一人一人を見つめ、澄んだ声で語り掛けた。
 
 内容は簡潔でわかりやすく、聞き手はすぐに惹きつけられる。
 
 その様子に、早くも女子たちは釘付けになっていた。
 

 ただ一人の女子を除いては──。


「……あいつ」
 
 あまりの驚愕に、思わず口から零れる。
 

 伊崎の傍でぼんやりと立っている華奢な男性を、長浜美桜は、凝視していた。
 
 眠たそうな顔で立つその男には、見覚えがある。
 

 忘れもしない、一週間前。
 
 駅のホームでふらついていた自分を、自殺するのではと勘違いした男。
 

 男性にあんなに責め立てられた経験なんて、後にも先にもあれだけだろう。
 

 とにかく何もかも、強烈なインパクトだった。
 
 息を飲むほどの美青年。

 しかし中身は、とてつもない毒舌。
 

 しばらく彼のことが頭から離れなかったほどだ。
 
 

 それは…あのときのキスのせいもある。
 

 思い出すと頬がわずかに熱を持ち、美桜は俯いた。