とは言っても、中々自分から陽人の元に行く勇気は出ない。

気がつけば、もう下校時間になっていた。

「運良く、最寄駅でバッタリ会うってことはないかな……」

なーんて独り言を言ってみたが、今日は陽人は部活があるので私の帰る時間と重なることはない。

陽人の部活が終わるまで待つ、という手もあるが、果たして気持ちが持つだろうか。

「…………帰ろ」

あー、弱い。本当に私は弱い。

弱いんだけど、こればかりは勘弁してほしい。


自分の過去を、それも人には知られたくないような過去を、今まで良い関係を築いてきた人に明かすのは、勇気がいるのだ。少なくとも、私にはかなりの勇気が必要。

それが嫌われたくないからなのか、それとも一度蓋を閉めたことにもう触れたくないからなのかは、微妙なところなのだけど。


私は、頭の中で過去の自分を思い出しながら電車に乗り込む。





過去の私は、おそらく笑ったことがない。

そりゃあ、カメラを向けられたら少しは微笑むし、お笑い番組を観たら笑いが溢れるけれど。




嬉しくてとか、幸せでとか、そういう理由で笑ったことは一度もない。




「はぁ……」

嫌なことを思い出すと、ため息が出てしまう。

それでも最寄駅に着くと、周囲のいつも通りの様子を見て拍子抜けしてしまう。

なんていうか、自分にどんなに嫌なことがあっても結局、他人はいつも通りなんだな、と。
当たり前のことなんだけど。