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そして、待ちに待った(そこまで楽しみにしてはないし、待ってもないけど)大会の日がやってきた。
8時開場で、8時半に開会式、そして9時から試合開始だ。
私は、お昼ご飯をコンビニで買ってから会場に行くことにした。
いらっしゃいませー、とお決まりの挨拶をかけられる。無視をするのはなんだか失礼な気がするので、一応小さく会釈をした。
多分、陽人なら「うっす!」みたいな感じで、声に出して挨拶するだろう。
陽人と私の違いってこういう小さなことでも、大きく別れる。
……おそらくは陽人と一般の人、との違いだと思いたいけど。
腕に買い物カゴをぶら下げて、フラフラと店内を回っていてふと、「サークルの皆さんに差し入れとかあった方がいいのかな?」と思った。
何かそれらしいものはないかと探していると、お菓子コーナーに足が止まった。
そこには、飴玉やグミ、チョコレート、スナック菓子など、様々な種類のお菓子が並んでいる。
お菓子……って、どういうのががいいんだろう。
なんせ、年齢層は十人十色だ。幼稚園に通うような子から、還暦を過ぎた方までいる。
あー、こういうときに手作りクッキー的なのが作れればいいんだけど、あいにく私にはそういう技術は持ち合わせていない。
「んー」
迷っていても時間は容赦なく進む。
しばらくそうして試行錯誤していると……。
「何かお探しでしょうか?」
「へ!?」
急に店員さんに話し掛けられて、思わず声が上ずってしまった。
「?」
店員さんは不思議そうな目で見つめてきた。
本能なのだろうか、咄嗟に目を背けてしまう。
……あれ、もしかして私って意外とコミュ障!?
「え、えと、あの」
いや、でも待てよ。
陽人のときは初対面でも普通に話せたじゃん。
要は、気持ちの問題?
私は、キッと顔を上げた。
大丈夫、恥ずかしくなんかない。
「今日、知り合いのサークルが大会で……それで、差し入れになにかお菓子をと思ったんですけど……だけど、小さい子から割と歳のいった方までたくさんいるんです」
だから、何を選べばいいかわからないんです。
最後の方は消え入るような声になってしまった。
ていうか、高校生なのにこんなことも言えないなんて、私ってなんか……。
私がシュンと落ち込んでいると、店員さんはフッと笑ってくれた。
「あー、私もよくありますよ。差し入れって、相手の好みや場に合ったものを選ばなきゃいけないから、大変ですよねぇ」
あ、なんか優しい人でよかったぁー。
などと私が安堵している間にも既に、店員さんはとあるお菓子を持ってきていた。
「これなんかどうでしょう、『鈴カステラ』!」
パッケージには、優しげな黄色い生地に茶色い焦げ目がいい具合についているコロンとしたカステラが写っていた。
「これでしたら、どの世代の方にも愛されてますし、比較的食べやすいと思いますよ。……あ、でも喉渇いちゃうかも」
「あ、あの、これでいいです。いや、これがいいです!」
せっかくオススメしてくれたものなので、断るのは少々気が引ける。
それに、喉が渇くことについては、みんな飲み物をそれぞれ持ってきているはずだから心配ないはずだ。
「ありがとうございました!」
私は深々とお辞儀して、レジに向かった。
