私は目立たないよう、そっと教室の後ろ扉から外に出る。
廊下を見渡すと、陽人はすぐ見つかった。
彼は掲示板に貼ってある「ゴミはきちんと分別しよう!」というポスターにシャーペンで落書きしている。
やってることが小学生だ……。
その割にはチキンなので、先生の声が階段から聞こえた途端に、急いで消しゴムで消し始めていた。
その様子を黙ったままずっと見ていようかな、と思ったが、場所が場所なので人目につく前にさっさと済ませることにした。
「なーにバカなことやってんの」
私がそう言うと陽人はこちらを振り向いて、「俺は至って真面目でーす」とピースしてきた。
……うん、説得感ゼロ。
「それで何か用?」
「『何か用?』って、お前冷たいなー。学校いるときだけ冷たいの、何でだよ」
それはあまり仲良くしすぎると誤解を生むからだよっ!
と言おうと思ったが、コイツに何を言ってもわからないと思うので無視を決め込む。
「それで?」
「あー、今流しやがったな。ま、いーや」
ほら、どうせそうなるじゃん。私は心の中でぼやいた。
私たちの横を先生たちがどんどん通り過ぎて行った。
もうそろそろホームルームが始まるだろう。
「あのな、再来週の日曜日にパラバドのオープン戦が総体であるんだよ。んで、俺たちのサークルのほとんどが参加するから、良かったら観にこないかって話」
「へー、大会かー。オープン戦ってどのくらいの規模なの?」
「去年は関東のチームが多く来て、全種目合計で200人くらい来たぞ」
「え!? そんなに大きいの?」
オープン戦というと、もっと小さいイメージだったので驚いた。しかも、競技人口がまだ多いとは言えないパラスポーツなのに。
「そもそもパラバドの大会自体が少ないから、オープン戦とかでもけっこう貴重なチャンスなんだよ」
「なるほどね! ……で、再来週の日曜だっけ? 多分行けるけど、一応予定が入ってないか調べておくね」
「おう、頼んだ!」
それじゃ、と言って別れたのとほぼ同時に担任がやってきた。
私が急いで教室に入ろうとすると、「なあ」と先生が声をかけた。
「天久、お前、清瀬と仲良いのか?」
「へ? キヨセ?」
私がきょとんとすると先生は「ほら、さっきの」と遠くの方で歩いていた陽人のことを指差した。
「あー、陽人ですか? 友達の友達って繋がりですね」
「近いようで遠い関係だな。それにしては仲良さそうじゃないか」
「向こうがフレンドリーでオープンなだけですよ」
と私が苦笑すると、先生も「そんなもんか」と納得した様子で教室に入っていった。
まったく、先生にまで変な勘違いをされるのだから困ったものだ。
