16の、ハネ。



「進路って、マジで、ナニモンなのっ!?」

「いやいや、ウチにキレられても困るんですけど」

私の心からの訴え (というか、もはや嘆き) に対して、佐藤ちゃんは塩対応で流してきた。


週明けの眠い眠い月曜日。
6時間目の進路ガイダンスを終えて。

先生が私たちに、一枚の紙を渡してきた。

『進路調査票』とかいうヤツを…………。


そこには、「第一志望の大学」とか「科目選択」とか「文理選択」なんていう、進路に関わる大事な項目がツラツラと書き重ねられている。


私は右手に持ったその紙を見ながら、ぐったりと机に伏せた。


「大体さ、中学んときも高校の進路決めたわけじゃん? 今始まった事でもないでしょ」

と佐藤ちゃんは呆れた顔でこちらを見つめていた。

「んんんー! そーなんだけど!」

私は上手く言葉に出来ず、そこで口を閉じてしまった。


確かに佐藤ちゃんの言ってることは間違ってない。

けど、それとこれとはワケが違う気がするっ……!!



中学のときはなんとなく進学校っぽい高校選んどけば、失敗するってことはなかったじゃん。

でも。
なんていうか、大学はさ、就職とかにもつながるわけでしょ?

科目や文系理系の選択だって、どれか一つの道に絞らなくてはならない。

でもそれって、後になってから「こっちにしておけば良かった」って思っても手遅れなわけじゃん。


そういうことも考慮すると、何が正しくて何が良いのかわからなくなってきちゃう……。




「確かに、大きな分かれ道だよね」

私の脳内を見透かしたかのように、佐藤ちゃんはドンピシャな言葉をかけた。

「けどさ、結局自分の人生なんだし、『やりたいようにやれ!』じゃない?」

「やりたいようにやれ……」

私のバカみたいなオウム返しに、佐藤ちゃんはフッと笑った。

「ウチは『なるようになれ』の人生は反対だよ。確かに自然のままに生きていくのは悪いことじゃないけど、でも幸せは自分で掴みに行かなきゃ」

今の時代、シンデレラストーリーなんて起きっこないしね。
そう言った佐藤ちゃんは、わざとらしくため息をついた。


「ま、アンタの王子様はきっと今頃、教室の外で待ってるけど」


その言葉だけで、誰が待っているのかわかった。

最近の佐藤ちゃんは、私と陽人の関係を茶化すことが楽しいらしい。
……私にとっては迷惑極まりない。

まぁ、嘘の噂を流したりはしてないから、それで私はいいんだけど。

しかし、このまま無視すると「何? 意識しちゃってんの?」的な展開になりかねない。

「あれの、どこが王子様だって言うの?」

仕方なく、呆れながら私は聞いた。

「ウチは天久ちゃんとお似合いだと思うけどなー、バカップルっぽくて」

「誰がバカップルだっ!」

私は佐藤ちゃんの頭に拳をコツンとぶつけた。
「やばい、今ので世界史の知識ぜーんぶ抜けた」とかぼやいている彼女を放っておき、私は陽人の元へ向かった。