16の、ハネ。



一人になると、なんだか途端に寂しくなった。

普段、一人でいることなんて何とも思わないのに。そんなの、よくあることなのに。



それだけ、この数分間の陽人の影響力が大きかった。






この体育館だと、緑のラインが引かれたバドミントンコートは全部で十六面できる。そのうち、陽人たちのサークルが使うのは、入り口から見て一番手前の4面とのこと。ここに来る途中に教えてもらった。

さっき付いたばかりの照明は、やっと明るくなってきた。
緑っぽく見えていた景色が、オレンジ色に変わり、そしてゆっくりと正しい色へと戻っていく。まるで、異世界から帰還してきたような感覚だ。

辺りがよく見えるようになって、もう一度館内を見渡していたそのとき、ガチャリ、と重い扉の開く音がした。どうやら、入り口から誰か入ってきたらしい。

目を凝らして音のした方をみると、一人中年のおじさんが来ていた。


陽人もそのおじさんに気がつき、「ちわーすっ」と元気よく挨拶した。


あ、同じサークルの人なんだ。
私が密かに記憶に止めようとしていたら、おじさんが「急にどうしたんだよぉ」と図太い声を出した。

「ハル坊、今日は早ぇじゃねえか。遅刻常習犯のクセによぉ」

おじさんの言葉に思わず、陽人ってどこでも自己中心的なやつだなぁと思ってしまう。

陽人はおじさんの言葉に驚いたふりをしながら、「えぇっ!? 俺、いつも超真面目っすよ」と反論した。

「おいおい、どこが真面目なんだよ、言ってみろ、えぇ?」

そう言いながら、おじさんはガハハと豪快に笑った。
陽人も「いつもサーセン!」と謝りながら笑っている。


私は、その光景を見て自然と笑みがこぼれる。
きっと、陽人のような明るくて、強引で、よく笑う奴には自然と人が集まる。

そして、彼の周りは笑顔で溢れていくんだ。

そんな陽人が、私は羨ましい。




おじさんは陽人と世間話をしながら、ラケットの入ったバッグを下ろした。
その横では、陽人がストレッチを念入りにしている。


おじさんは、「屋内は暖けぇなぁー」と言いながらウィンドブレーカーを脱いだ。





その瞬間、私は目を疑った。





おじさんの腕が、半袖の練習着の右袖からしか出ていなかったのである。
左袖は無の空間だけが漂っていた。


私が何度も目をこすって確認している間にも、次々とメンバーがフロアに入って来た。




車椅子に乗っている人。


松葉杖をついている人。


義手を付けている人。


義足を付けている人。


片腕がない人。


身長が低い人。





小さい子から、お年寄りまで、ざっと三十人ほど。



いつの間にかストレッチを終えた陽人が、ウィンブレの長ズボンを下ろして短パン姿になっていた。






彼の左足は、銀色に輝いていた。