16の、ハネ。


どうやら、彼が鼻を膨らませてるときは自慢してる証拠らしい。

……せっかく人が素直に褒めてやったのに、なんだその態度は。少しは謙遜というものを覚えろよ。

でも、女子の「○○ちゃん、かわいいねぇ〜」「え〜、そんなことないよぉ〜」などという謙遜オンパレードな会話より、よっぽど素直で清々しい。私は、こっちの方が好きだ。

しかし、肝心のフルネームがまだだ。

「んで、苗字はなんなのさ」

こちらから聞いたが、彼は少し口ごもってから首を振った。

「だって教えたら、お前そっちで呼ぶだろ?」

そっち、とは苗字のことだろう。
つまり、苗字呼びするな、と。

「じゃあ、なんて呼べばいいの?」

「普通に『陽人』って呼べ」

「命令形かよ」

私が突っ込むと陽人はニヒヒと笑いながら、「まーな」と答えた。……さっきから私、突っ込んでばかりだ。

高校生にもなると、異性のことは苗字で呼ぶのが普通だけど、彼が名前で呼ばれることを望んでいるのだから、それでいいだろう。それに、彼は「陽人」が一番しっくりくる。


「じゃ、陽人。よろしくね」

このタイミングでこういう挨拶をするのも変な感じがしたが、なんとなく言いたくなったから仕方ない。

すると、彼も満足そうに笑って「おう、よろしくな!」と答えた。

月明かりが、少しだけ笑っていた気がした。