どうやら、彼が鼻を膨らませてるときは自慢してる証拠らしい。
……せっかく人が素直に褒めてやったのに、なんだその態度は。少しは謙遜というものを覚えろよ。
でも、女子の「○○ちゃん、かわいいねぇ〜」「え〜、そんなことないよぉ〜」などという謙遜オンパレードな会話より、よっぽど素直で清々しい。私は、こっちの方が好きだ。
しかし、肝心のフルネームがまだだ。
「んで、苗字はなんなのさ」
こちらから聞いたが、彼は少し口ごもってから首を振った。
「だって教えたら、お前そっちで呼ぶだろ?」
そっち、とは苗字のことだろう。
つまり、苗字呼びするな、と。
「じゃあ、なんて呼べばいいの?」
「普通に『陽人』って呼べ」
「命令形かよ」
私が突っ込むと陽人はニヒヒと笑いながら、「まーな」と答えた。……さっきから私、突っ込んでばかりだ。
高校生にもなると、異性のことは苗字で呼ぶのが普通だけど、彼が名前で呼ばれることを望んでいるのだから、それでいいだろう。それに、彼は「陽人」が一番しっくりくる。
「じゃ、陽人。よろしくね」
このタイミングでこういう挨拶をするのも変な感じがしたが、なんとなく言いたくなったから仕方ない。
すると、彼も満足そうに笑って「おう、よろしくな!」と答えた。
月明かりが、少しだけ笑っていた気がした。
