16の、ハネ。




あの日から約一週間ほど経った。

別に特にこれと言って変化のない、実に平和的な日常。私にはこのくらいがちょうどいい。いつも通りのことを、いつも通りに過ごす生活。



朝はホームルームが始まる十分前に教室に入り、その日の時間割を確認。ロッカーから教科書やら資料集やらを取り出して机の中に入れる。

そして、授業。
あの日は女の子の事情で寝てしまったけど、普段は先生の話もきちんとメモをし、発言も積極的に行う。至って優等生。クラスメイトからノートを写させてと頼まれることも、日常茶飯事。世間では、こういうのがイジメの始まりだとかよく言うけど、私は他人に頼られるのは割と好きなので、特に困っていない。むしろ、もっと頼っていいと言いたいくらいだ。

午前の授業が一通り終われば、お昼には仲の良い友達と一緒にテラスでご飯を食べる。
わざわざテラスまで行く理由は、教室だと男子がうるさいから。ちなみに雨の日は食堂で。「私立の良いところって、食堂とかテラスとか、施設が充実しているとこだよね」という友人の言葉に、私はコクコクと頷く。

少し眠くなる午後の授業も、なんとか睡魔に耐える。6時間目なんて、クラスメイトの半分近くが夢の中だ。まあ、自称優等生の私は、その様子を後ろの席から眺めつつ先生の話に耳を傾けるのが日常だ。

全ての授業が終わり、放課後になると、今度は補修授業に参加する。ちなみに科目は苦手な数学。他の学科やクラスの人たちと合同なので、普段の授業のように先生から当てられることはほとんどない。もちろん、自分から発言することも、だ。

補習が終われば、ようやく学校での授業は全て終わる。別に用のない学校に長くいる必要もないので、さっさと帰る準備をして電車とバスを乗り継いで……はい、帰宅!



これが私の普段の生活。
誰かと揉めたり、一時の感情に流されたりすることはなく、平穏にぬくぬくと生きていく。


私はそれだけで十分な日々だと思う。


世の中には、「人生冒険しなきゃ楽しくない」なーんて、一丁前に言う人もいるけど、争いとか危険なんてない方がいい。


だって、そんなことしたって時間の無駄だから。得るものもあるかもしれないけど、必ず失うものだってある。

結局、人間は生き物だからいつか死ぬわけだし。だったら、長生きできるように平穏に過ごすべきだ。


……というのが私のモットーであり、生き方だ。



思えば、雪玉が当たった時の私の対応はこのモットーに反していた。
普段なら、「大丈夫です! お気になさらず」とか言って場を丸く収めていたはずだ。

そこで、ふとあの男子に逆恨みされるのではないか、という悪い考えが浮かんできた。

いや、自分で思い浮かんどいてなんだけど、逆恨みって何? 雪玉2倍返しとか?

あ、確か男バドって怖い先生がいたんじゃなかったっけ? もし、アイツが私が雪玉投げつけてきて怪我させたとか告げ口したら?

いや、でも先に向こうがやってきたし。ていうか、そもそも部活中に雪合戦やってる時点で先生注意しろよ!! とか反論したら、逆に怒られる? まさか、体育館裏に呼び出されて……体罰? いや、さすがにそこまで……しないとは言い切れなそう。

想像はどんどんエスカレートしていく。自分でも頭のどこかでは「いや、ありえない」とは思いつつ、「でも、ならないとは限らない」とも思ってしまう。




でも、ひとつだけ確かなのは。




やっぱり平和的解決を求めれば良かった!!