「和真、良成が向かえに来たよ!!」


姉の張りのある声は十分和真の部屋までとどいた。噂の幼馴染みのお迎えがくる。和真にとって、ここからが戦いだ。


この幼馴染みには、毎度貴重な睡眠時間を奪われてきた。今日はもう目を覚ましているとはいえ、このまま何も考えずボーッとすることも大切な時間のはず。それを邪魔されることがあって良いはずがない。


ガチャ


静かに開かれたドアから静かに部屋へ入る眼鏡をかけた髪の長い少年。幼馴染みの良成である。闘いの火蓋は切って落とされた。


「今日辺りにだるま姿の和真が見れるとは思ってたが、ドンピシャだな。」


「……」


清ました顔の幼馴染みはネクタイを首本まで締め、ばっちしと自校の制服のブレザーを着こなしている。世の中の人々はこう言う人間に「できる奴」と言う称を付けるのだろう。


「和真、朝の挨拶は?」


「……」


遠い彼方を見つめ、ガン無視を貫く。あくまで聞こえないふりだ。本当にトンでいる訳でもない。


「挨拶は?」


良成の顔が近い。眼鏡で拡大された目が、じっと和真を覗きこむ。何よりも辛い拷問に思えてしかたのなかった。


「……おっ、おはよう。」


「はい、おはよう」


へたれな和真は、またもその場でKO負け。事を済ました良成は、すたすたと部屋を後にする。

「ユマ姉、カズ起きたよー」


閉ざされたドアの外で叫ぶ良成の声が聞こえは、なんとも和真を惨めにした。