…………人の声が聞こえる
僕にとって、殺したあとの死体の観察は無くてはならない手順だ。
それを邪魔されるのは、癪に触って仕方がない。
「その人、私の相手」
少女のはだけた服から察する。
エンコー………。
別にそんな事を知ってもなんの足しにもならない。
今は人を絶命させたくて疼いているこの衝動を、人の命と引き換えに抑えたいだけだ。
「どうでもいいけど、一度に二人殺れるなんてツイてる」
男は心底幸せそうに微笑みかけた。
端正な顔が加担し、その恐怖を何倍までに引き上がらせていた。
「ラッキーガール
お好みの方法で殺してあげる」
大抵はここで逃げ出す。それを捕まえて殺すのが、男にとっては一番の至福だった。
少女が形のいい唇を動かす。
「ナイフ」
そう、静かに言葉を発した途端、男の表情が変わる。
今までにもこういう人間は居た。
死を恐れていない様に取り繕うのだ。精一杯強がって見せるのだ。
それなのに、死ぬ直前になってやっと命を請う。
この態度が、男が一番に嫌っている人間の性格だった。
貪欲で、自尊心が高くて、見苦しい。
心底吐き気がしそうだ。
「ごめんね。ナイフは血で切れ味鈍ってるから
素手でやるね。」
一歩、力を込めて踏みしめ、地面を蹴る。
目の前ではっきりと見える表情は、その目に何色も、ましてや恐怖さえも映していなかった。
その華奢な首を両手で包み込み、力を込める。
精々ポーカーフェイス保ってろ。
苦しんで死ね。