わたしのキャラメル王子様

でも、怒りまかせにフロアの角を勢いよく曲がったら、誰かとおもいきりぶつかってしまった。



「いってー、大丈夫?って……!」



お互いしりもちをついた状態で、相手を見た。



「悠君、なんで?」



さっき帰ったはずの悠君とぶつかるのはおかしい。



「なんでって、戻ろうと思って」



「ケンカしてたのに?」



「そうだよ。だって朝の約束思い出したから」



「え、なんだっけ?」



「お昼食べたらお菓子交換しよってさ」



悠君は、ポケットのなかからあめ玉を一個取り出した。それは私も悠君も特に思い入れのないさくらんぼ味の、のど飴で。



「にしても、なんでのど飴なの?」



心の声が言葉に出ちゃった。



「昨日からノドが痛いって言ってたじゃん」



それは自分も忘れていたくらいの、なんでもない発言だったのに。



「あとさ、沙羅ママのお使いちゃんと覚えてる?」



「え、なんか言われたっけ?」



「帰りにマヨネーズ買ってきてって言ってた」



「あ、そうだった!」



「もう、しょーがないな。はい」



私の膝の上にあめ玉を置くと、悠君は再度眉間にシワを寄せた。



「どうしたの?何その顔」



「何って、ケンカの続きだよ。じゃあね、ふーんだ!」



確かに悠君の言動は意味がわからない。
南君の言うことは、すべて当たっている気もする。
だけど、それがなんなの?って思ってしまった。



私はたぶんずっと、わけのわかんない悠君が好きなんだ。
あれは、そのことを思い知った瞬間だった。