わたしのキャラメル王子様

「好きな子を目の前にしてお預けなんてタカヤには絶対ムリだもんな」



そう呟いて京ちゃんは人差し指でくいくいと私を手招きした。



「なになに?」



顔を寄せると、至近距離なのにやけに小声で男の子というものの生態について京ちゃんは持論を熱く語り始めた。



「あのね、これはあくまでもあたしの経験上の意見なんだけどね」



その言葉の続きを聞いて私はただひたすら赤面!



「てかさ、好きな人に好きだと言われたら迷わず付き合うのが普通じゃない?深く考えないでさ」



京ちゃんは平然とした顔でマスカットティーをごくごく飲んだ。



「だって、私も好きだよなんて言っちゃったらさ、三角関係が始まるんでしょ?いや四角?う、うわぁぁぁ」



相関図も描けないほどにパニック!



「大丈夫だって!今週水瓶座の恋愛運めちゃめちゃいいって書いてあったもん。ほら」



京ちゃんは傍らに追いやられていた雑誌を開いて私に見せてくれた。



「今週ってもう終わるんですけど!」



「あーそっか!ごめんごめん」



京ちゃんの励ましは嬉しい。
だけど、何をもってもこの不安は拭い去れない。



これを機会に私は胸のうちの不安を京ちゃんに話してみた。悠君みたいな男の子ってきっと追うことが喜びで、手に入れたら安心して、放っておかれるような気がするんだって。



「釣った魚に餌をやらない、みたいなこと?」



「そう、それ。うちのクラスにはもういい、ってくらいやって来るけど、半同居みたいになってから連絡がほぼなくなったんだよね」



悠君がここ最近、あまりにもうちのクラスに通い詰めるもんだから、会いに来てくれるのが当然だと思ってしまってた。
いつも他愛のない用件だったけど、連絡だってマメだったのにな。




そのうちのひとつが欠けただけで不安になるなんて、私って何様だろう。恥ずかしくなる。




「それってさ、近くにいると必要ないからでしょ?そんなこと気にしてたら何にも前に進まないよ?幸せになる気ある?ライバルと戦う気、ある?」



……言い返す言葉も見当たらなかった。



「沙羅と佐野君のわちゃわちゃ見てるのあたし好きだよ」



京ちゃんは頬杖をついて、大人っぽく微笑んでた。



「口喧嘩みたいなのもなんだかんだ仔犬がじゃれあってるみたいに見えちゃうんだよね」



「仔犬って……!」



大人びた京ちゃんには子供のじゃれあいにみえてるってことかぁ。



「そういえばさ、映画の感想が食い違って言い合ったこともあったよね?」