彼女の名前が夜に知れ渡った時、彼女は17歳だった。地方から1人で上京してきた彼女は、駅前で路上ライブを繰り返し、何時ぞのストリートライブであふれんばかりの人並みの真ん中で歌っていた。その時に初めて彼女を知った。それからすぐに彼女は歌う場所を変える。駅前の公園前の小さな木の前ではなくて、武道館とかドームとか、何万人のまえで歌っていた。華奢な体から絞り出す泣きそうな歌声も、マイクを繋がなくとも響き渡る凄まじい声量も、当時彼女と同時期にオリコンチャートを賑わせた歌手やバンドたちとは比べ物にならなかった。芹沢あざみ。彼女の名前を聴かなくなってもう三年が経つ。
彼女は消えた。ある日突然。歌を捨てた。
彼女の歌声を追いかけ続けた僕は、そっと彼女のCDを久しく使ってなかったプレイヤーにいれ、イヤホンを耳に差し込む。アコースティックギターの奏でる定期的なリズムのイントロのあと、ギターをかき消すほど艶やかで、でも儚い歌声が流れる。今日は彼女の誕生日だ。23歳。彼女は、生きてるのだろうか。