「今まで、身体を求めなかった男って いたかい?」


倉田奈緒は首を横に振った。


「私の心が好きだからって言ってた人も、結局は身体を求めてくる。多分、時間がたてば私が受け入れると考えていたと思う。私が拒否をすると、最後はみんな同じこと言うの。本当は俺のことなんか愛していないんだろ?って。私が身体を許さないのは、相手の男性を心から愛していないからだって」


「男としては、拒絶されたことでプライドが許さないんだろうな。だから君に責任を押し付けたがるんだよ」


「私、本気で悩んだの。みんなが言うように、私が悪いんじゃないかって」


「でも、本気で好きな男ともダメだったんだろ?」


「うん。・・・抱き合っていても気持ちよさなんて全然なくって、苦痛だけだった。キスされたときは目をつむってひたすら我慢して、彼に隠れて唇を手で拭ったわ」


「その彼とは最後までいったのかい?」


「ううん。無理だった。・・・ベッドの上で彼が私の上に重なってきたとき、どうしても我慢できなくて大声で叫んだの」


「彼は?」


「一気に冷めてた」


「君のことを受け止めてはくれなかったのか」


「別れるとき彼に言われた。『お前なんて、抱けなきゃ意味ねーよ』って。・・・すごくショックだった。世界が真っ暗になった感じ。もう私はダメなんだって思った。女としては欠陥品」


「君が男を避けるようになったのは、それが原因だったんだね」


「私は決めたの。もう恋なんてしないって。・・・あんな辛い思いは二度としたくないもん」



倉田奈緒を見つめながら、俺の中で何かが ざわめき始めた気がした。


だが今の俺には、彼女の人生を受け止める勇気はまだ無かった。