「なるほどね。なんとなく分かった気がするよ」


「稲垣さん、人が飲んだジュースとか そのまま飲めますか?」


「缶ジュースとか?」


「ええ」


「まあ、別に飲めるけど」


「私、ダメなんです」


「じゃ、お鍋なんかも皆でつついて食べるのはダメだね」


「絶対にダメ。想像しただけでも気持ち悪くなる」


「家族の人なら かまわないんだろ?」


「ダメ。パパだけでなく、ママもダメ」


「電車の手すりとかも?」


「つかみません」


「銀行のATMなんかは?」


「そういう時は必ず手袋します」



そう言われて、俺は彼女の癖を思いだした。


彼女は飲んでいるグラスの口を時々紙ナプキンで拭いていた。


俺はそれを、口紅がついたのを気にして拭いているのかと思っていたが、彼女は自分自身の唇の汚れを気にしていたのだ。


グラスが汚れることさえも、彼女にとっては不快なことだった。



俺は改めて彼女の潔癖さに驚いた。