「支払いしておくから、帰るときは このカードをフロントに」


そう言うと、彼女は小さく頷いた。


そして両手を広げながら俺を呼ぶ仕草をした。


俺は横たわる彼女を抱き寄せ、軽くハグをして部屋を出た。




女の名前を、俺は知らない。


彼女とは、昨日 飲み屋で知り合った。


ホテルに誘ったのは もちろん俺のほうだ。





早朝のロビーは いつも空いている。


部屋に連れがいることを伝えて、フロントで支払いを済ませる。


そして、タクシーで自宅へと向かった。




俺の名前は稲垣 誠

32歳 独身

自動車会社で営業の仕事をしている。


恋人は いない。