「倉田さん、電車?」 「いえ。歩きです」 「近所なの?」 「会社の寮です」 「ああ。寮ね」 うちの会社には社員寮があった。 主に独身者を対象にしたワンルームタイプのものだ。 女子社員は防犯上の理由から会社近くの寮に優先的に入ることができた。 「稲垣さん 電車ですか?」 「うん。・・・あ、でも 寮まで送るよ」 「え?」 「フフ、大丈夫だよ。襲ったりしないよ」 冗談のつもりで そう言ったのだが、一瞬 倉田奈緒の表情が曇ったのを俺は見逃さなかった。