図書室に入ると、廊下より涼しい空気が漂っていた。

「うわ、すずしー」
「図書室は日当たり悪いから、夏は涼しいんだって。そのかわり冬は極寒らしいけど」

司書に聞いた話をすると、今がよければいいのか田口君は嬉しそうにカウンターに入って行く。

「ていうか、誰もいないっていうね」
「いいじゃん。いまのうちに配架しちゃうから、カウンターみててね」

配架する本を出来るだけ多くもって、棚の間を歩く。
誰もいない図書室は静かで、夏休みにざわついていた教室とは大違いだ。

ガラっという音がして、人が来たかと思ったのに、その後なんの音もしない。

「田口君?まさか、サボって帰ったんじゃ、」

入ってきた音じゃないなら、出て行った音だ。

嫌な予感がして本を持ったままカウンターの方に戻ると、カウンターには人が居た。
田口君じゃない人が、所在なさげに、困り果てて。


「…なにしてんの」

呟いたと同時、驚いて持っていた本を落とした。

ハードカバーの本達が足の甲を直撃して、声にならない声が出た。

「ったぁ…」
「うわ、いたそ…」

痛そうじゃなくて、痛いよ。
そう思っていると、カウンターにつったっていた崎口が出てきた。

「怪我は?」
「…してない、かな。あ、ごめん」

痛いけれど血が出てそうとか捻挫してそうとかはない。
拾ってくれた本をもらって、改めて首を傾げる。

「田口君いなかった?」
「あとよろしくって、出てった」
「いや、崎口も部活でしょ…」

どうせならもう最初から素直に部活に行きたいって言えばいいのに。

この状況はどうしたいんだ。