「鈴、大丈夫?」

黙りこくっていた私に、彩加が優しく肩を叩く。

「もー、…ばかだなあ。今日はもう帰ってゆっくり話す?」

彩加の優しさが、すごく沁みる。

高校にも同じ中学出身の子は多く居るが、やっぱり彩加と話すほど仲良くなれた子はいない。
まして、今更3年近く前の恋愛話を掘り起こしたりできない。


実はすごくブレザーが似合うとか、
でもたまにネクタイが不器用にねじってるとか、
図書当番の時に転寝をしてるとか、
体育祭の時のサッカーがかっこよかったとか。

今更そんなことを思うなんて、誰に話したらいいのか分からない。


いつか、もう一度。


なんて、思ったことは一度や二度ではないけれど、
でもそれもすぐに打ち消される。

目が合うことも、雑談をすることもない。
私のことを、話題にすることすらもう、崎口はありえない。

自分がひどいことをした自覚はある。
でも、別れを決めた後だって、崎口を好きなのは変わらなかった。

伸びてく身長とか、部活をがんばってることとか、細かい情報を集めていた。

あの時もらった連絡先のメモはまだ持っている。
もう繋がらないかもしれない電話番号とアドレスが書かれたメモ。


でももう、本当にそろそろ潮時なんだろう。

中学の頃の私たちのことを敢えて口にするのは、田口君くらいなものだ。

新しい同級生の中での生活で、きっと崎口はようやく自由になれたのだ。