「ごめん。やっぱやめる。なかったことにして?」

家の電話だと家族に聞かれそうで。
だからといってスマホはまだ持たせてもらえてなくて。

駅前の公衆電話で土曜日の昼過ぎにこっそりとかけたのは、中学1年の終わりのことだった。

「は?なに、それ。意味わかんねえんだけど」

そう言った声は声変わりをする少し前で。

「いいよ、わかってくれなくて。じゃあ、テストがんばろうね」

月曜日の期末テスト初日。

出席番号が前後の私達は、顔を合わせることすらしなかった。
テストが全部返ってきてから、ふと、なんだか物足りないことに気づいた。

いつもだったらここで、テストの点数で競う相手がいた。
名前順だと前後で、男女隣席にすると隣になる出席番号の男子。
今では、給食で机を合わせるときに少し隙間を空けるようになってしまった男子。

初めて実るはずだった、恋の相手。