「音羽。夏休み、遊びに行こう!」
夏休みまでおよそ一週間。
奏多が私の肩をつつきながら言ってきた。
「今、授業中なんだけど。奏多、この前もノートとってなかったでしょ。そろそろ先生に怒られるよ」
小さな声でそう言うと、奏多はそんなこと気にしないといった風に私に話しかけてくる。
「俺さ、軽井沢に別荘あるんだけど、来ない?」
別荘……!?
「奏多って、金持ちだったの!?」
「え……?全然」
「だって、別荘って」
「別荘なんて、違うところに家一軒買えばそれで別荘になるでしょ」
この人、なんかすごい。
「でも、やっぱ無理だよ。だって私、夏は吹奏楽コンクールがあるから」
「じゃあ、コンクール終わった後とかさ」
「……そんな気分になれないと思う」
だって、この学校の吹奏楽部は、無茶苦茶弱い。
みんな練習しないから。
私を入れて四、五人くらいしか真面目に練習してない。
本当に、最悪。さぼるくらいなら、やめちゃえばいいのに。
吹奏楽コンクールは、金賞、銀賞、銅賞いずれかの賞はもらえる。
つまり、銅賞が一番下ってこと。
この調子じゃ、コンクールは銅賞間違いなしだけど、まだあきらめるわけにはいかない!
「じゃあ、コンクール見に行くね」
「は……?だ、だめ!」
私は、思わず大きな声を出してしまう。
すると、
「こら!神村。うるさいぞ!」
と、注意されてしまった。
奏多のほうをちらっと見ると、クスクスと笑っていた。
本当に、奏多とかかわるとろくなことない。
キーンコーンカーンコーン。
「起立。礼」
『ありがとうございました』
私は、授業が終わって奏多のほうを見る。
「授業中に話しかけないで。先生に注意されたじゃない」
「あれは音羽が大声出したからじゃん?」
「奏多が話しかけるからでしょ!」
そんな会話をしていると、美奈ちゃんが友達の輪を抜けて私たちのほうに近づいてきた。
「九条君と神村さんって、仲良かったんだね」
は……?
突然近寄ってきて、何なのこの人。
「仲良くないです」
「仲いいよ」
私たちは、ほぼ同時にそう言う。
すると、美奈ちゃんが奏多の服の裾をそっとつかむ。
「ん……何?どうしたの?」
奏多は、ニコッと甘い笑みを口元に浮かべる。
美奈ちゃんは、その笑顔を向けられて、頬を赤く染める。
この女好きめ。奏多ってすぐに何違いさせるようなことするよね。
……って、なんで私がそんなこと気にしなきゃいけないの!!
「私ね、日向君と付き合ってるんだけどね」
美奈ちゃんがそう言った瞬間、奏多の表情が一瞬暗くなる。
私は、静かに二人の会話に耳を傾ける。
「最近、上手くいってなくて……よかったら、相談に乗ってくれない?」
瞳を潤ませてそういう美奈ちゃん。
この人、絶対奏多に乗り換える気だ。
多分、奏多もそれをわかってると思う。でも、いつもみたいに笑顔で相談乗ってあげるんだろうなぁ。
そう思っていると、奏多が美奈ちゃんの手を振り払った。
「ごめん。俺、日向の恋愛に興味ないから。早川(はやかわ)の恋愛にも、もっと興味ない」
この人、早川美奈っていうんだ。
っていうか、奏多が女の子に冷たくしてるところ、初めて見たかも……
日向君のこと、嫌いなのかな。
「——————っ……そっか…ごめんね」
「ううん。俺のほうこそごめんね。その代わり、それ以外なら何でも相談乗るから、何でも言ってね」
そう言ってさっきとは別人のような笑みを見せる奏多。
奏多にそう言われて、嬉しそうに笑う美奈ちゃん。
「う、うん!」
美奈ちゃんは、そのまま嬉しそうに友達の輪に戻っていった。
「……ねぇ、奏多」
「何?」
「奏多ってさ、日向君のこと、嫌いなの?」
そう聞くと、奏多が私のほうを見て目を見開く。
「それ、直で聞いてくるんだ。音羽って性格悪いね。やっぱり」
「……悪口?」
「全然。褒め言葉」
「どこが」
やっぱり、聞いちゃダメなことだったんだ。
でも、双子にコンプレックスがあるなんて、よくある話かな……?
「別に、答えなくていいけど。あんまり興味ないから」
「自分で聞いといて興味ないとか……傷つくわー」
棒読みでそう言う奏多。
むかつくな~……
「じゃ、部活行くから」
私は、奏多を置いて、音楽室に行く。
奏多って、この前も日向君の名前聞いて不機嫌になってたよね。
ただ単に嫌いってわけでもなさそうだけど、聞いてもどうせ教えてくれないんだろうなぁ。なんか奏多って、意外と秘密主義者かも。
悩みなさそうに見えても、人って何かしら悩み持ってるんだろうな……ま、それは本当に興味ないけど。
人に悩みがあるのは当然のことだし、むしろ悩みを持っていない人なんていないと思う。いたらその人を尊敬して生きていくと心に誓う。悩みなんてない様にふるまっている人でも、悩みはきっとある。だからそんなこといちいち気にしてたら疲れる。
大体、他人のことをいちいち気にして生きていくこと自体疲れることだと思う。もちろん気を遣うことは大切だと思うけど、みんなみたいに、周りに合わせて動くなんて、相当ストレスたまると思う。
そんなことを考えていると、音楽室の前に着いた。
でも、いつもならもうほとんどの人が来ている時間なのに、今日は誰もいない。まさか……
私は楽譜ケースに入れている吹部の予定表を出す。
すると、今日は職員会議があるから休みになっていた。
「……マジか」
四階までせっかく上がって来たのに……
まぁいいや。帰ろ。
私は、階段をとぼとぼ降り始める。
「…して……!あたし、何かした!?」
ビクッ。
三年生の教室の近くまで来たときに、そんな声が聞こえた。
喧嘩……?
そう思って、そっと三年生の教室の前まで行くと、三組の教室に、男子生徒と女子生徒一名ずつがいた。
私は、息を殺しながらその光景を盗み見る。
よく見るとそれは、美奈ちゃんと日向君だった。
「そういうんじゃなくて、別れたいから別れてって言ってるだけ」
「どうして……?私っ…日向君のこと、本当に…」
「あー…そういうの、ほんとにいいから。何て言うんだろ……重い」
日向君が、冷たい目をしながら美奈ちゃんにそう言う。
うわっ。最低。
そう思いながら見ていると、美奈ちゃんの目から、涙が溢れてきた。
でも、日向君は顔色一つ変えずに、美奈ちゃんを見つめている。
「だから、バイバイ。…あっ。次は戸津君とか狙ってみたら?あいつだったらちょろいから、きっと美奈でもすぐ落とせると思うし。ま、今あいつ神村さん狙ってるらしいけど」
日向君は、笑顔でそう言うと、泣いている美奈ちゃんを放って教室から出てきた。
私は、逃げるタイミングを失って、教室から出てきた日向君とばっちり目が合ってしまった。
うげっ。
日向君は、ニヤッと右の口角を上げて、私のことを見る。
「盗み見?趣味悪いね。神村さん」
「……あなた、最低だね」
日向君を睨みつけながらそう言うと、日向君はクスッと笑って両手をスラックスのポケットに突っ込む。
「ちょっと、ここから離れよっか」
そう言って歩き出す日向君。
「どこ行くの?」
「んー……図書室」
「どうして?」
「あそこだったら人こないし、ゆっくり話せるじゃん」
ゆっくり話したくないんだけど。
どうして私が日向君とゆっくり話さなくちゃいけないのよ。
「私、帰るので」
「そー言わずにさぁ」
うざい。
奏多よりこいつのほうが余裕でうざい。
「あの、ちょっとうざいです」
そう言うと、日向君はニコッと笑って私の腕をつかんだ。
「俺、女の子にうざいとか初めて言われた。やっぱり神村さんおもしろいね。俺と付き合ってよ」
……バカなの?今の流れでどうしてオッケイしてもらえると思ったの?
何を思って告白したの?受け入れてもらえると思ったの?すごい自信だな。
「いやです」
そう言うと日向君は目を少し細めて私の腕を引っ張る。
「ぅわっ……」
壁に押し付けられて両腕を顔の横で固定される。
「色気ない声出すよね」
そう言ってクスッと笑う日向君。
何なんだこいつ。
そう思いながらも私は何とか腕の拘束を解こうとする。
「無理だって。男の力にかなうわけないでしょ…?」
「えっ…ちょっと、離れてよ日向君…」
平静を保とうとがんばるけど…どうしよう…怖い———
日向君が私の足を見て少し笑う。
「震えてるじゃん。俺、怖い?」
頷くのも癪だから無言で日向君を睨みつける。
「あはは…神村さんさー、あいつのことどうやってたぶらかせたの?」
は…?あいつって…誰のことだ。
思わずしかめっ面になってしまう。
「あー…わかんないふりとかいいから」
めんどくさそうにそう言う日向君。
なんか…どんどんさっきの美奈ちゃんに対するような態度になってるような…
この人、二重人格なの?何なの?とりあえず離せよ。
「日向君の言ってることはよくわかんないけど……日向君は、私のことが嫌いなのにどうして関わってくるの?」
そう言うと、日向君は「え」と小さく声を漏らす。
日向君の手の力が一瞬緩まる。図星をつかれたからだと思う。
「おいっ!!何してっ……!!」
私と日向君の間に誰かが入ってくる。
日向君は両手をぶらぶらさせて私から少し離れる。
「なんだ…やっぱりたぶらかしてんじゃん」
日向君はそう呟いて私の目に立っているその人を見る。
「え…何で、奏多がここに」
私は、鬼のような形相の奏多の横顔を後ろから覗き込むようにして見る。
でも、奏多は私の声何て聞こえていないのか、ただ無言で日向君を睨みつけている。
ただ嫌いってわけじゃないんだろうな…日向君のこと。
夏休みまでおよそ一週間。
奏多が私の肩をつつきながら言ってきた。
「今、授業中なんだけど。奏多、この前もノートとってなかったでしょ。そろそろ先生に怒られるよ」
小さな声でそう言うと、奏多はそんなこと気にしないといった風に私に話しかけてくる。
「俺さ、軽井沢に別荘あるんだけど、来ない?」
別荘……!?
「奏多って、金持ちだったの!?」
「え……?全然」
「だって、別荘って」
「別荘なんて、違うところに家一軒買えばそれで別荘になるでしょ」
この人、なんかすごい。
「でも、やっぱ無理だよ。だって私、夏は吹奏楽コンクールがあるから」
「じゃあ、コンクール終わった後とかさ」
「……そんな気分になれないと思う」
だって、この学校の吹奏楽部は、無茶苦茶弱い。
みんな練習しないから。
私を入れて四、五人くらいしか真面目に練習してない。
本当に、最悪。さぼるくらいなら、やめちゃえばいいのに。
吹奏楽コンクールは、金賞、銀賞、銅賞いずれかの賞はもらえる。
つまり、銅賞が一番下ってこと。
この調子じゃ、コンクールは銅賞間違いなしだけど、まだあきらめるわけにはいかない!
「じゃあ、コンクール見に行くね」
「は……?だ、だめ!」
私は、思わず大きな声を出してしまう。
すると、
「こら!神村。うるさいぞ!」
と、注意されてしまった。
奏多のほうをちらっと見ると、クスクスと笑っていた。
本当に、奏多とかかわるとろくなことない。
キーンコーンカーンコーン。
「起立。礼」
『ありがとうございました』
私は、授業が終わって奏多のほうを見る。
「授業中に話しかけないで。先生に注意されたじゃない」
「あれは音羽が大声出したからじゃん?」
「奏多が話しかけるからでしょ!」
そんな会話をしていると、美奈ちゃんが友達の輪を抜けて私たちのほうに近づいてきた。
「九条君と神村さんって、仲良かったんだね」
は……?
突然近寄ってきて、何なのこの人。
「仲良くないです」
「仲いいよ」
私たちは、ほぼ同時にそう言う。
すると、美奈ちゃんが奏多の服の裾をそっとつかむ。
「ん……何?どうしたの?」
奏多は、ニコッと甘い笑みを口元に浮かべる。
美奈ちゃんは、その笑顔を向けられて、頬を赤く染める。
この女好きめ。奏多ってすぐに何違いさせるようなことするよね。
……って、なんで私がそんなこと気にしなきゃいけないの!!
「私ね、日向君と付き合ってるんだけどね」
美奈ちゃんがそう言った瞬間、奏多の表情が一瞬暗くなる。
私は、静かに二人の会話に耳を傾ける。
「最近、上手くいってなくて……よかったら、相談に乗ってくれない?」
瞳を潤ませてそういう美奈ちゃん。
この人、絶対奏多に乗り換える気だ。
多分、奏多もそれをわかってると思う。でも、いつもみたいに笑顔で相談乗ってあげるんだろうなぁ。
そう思っていると、奏多が美奈ちゃんの手を振り払った。
「ごめん。俺、日向の恋愛に興味ないから。早川(はやかわ)の恋愛にも、もっと興味ない」
この人、早川美奈っていうんだ。
っていうか、奏多が女の子に冷たくしてるところ、初めて見たかも……
日向君のこと、嫌いなのかな。
「——————っ……そっか…ごめんね」
「ううん。俺のほうこそごめんね。その代わり、それ以外なら何でも相談乗るから、何でも言ってね」
そう言ってさっきとは別人のような笑みを見せる奏多。
奏多にそう言われて、嬉しそうに笑う美奈ちゃん。
「う、うん!」
美奈ちゃんは、そのまま嬉しそうに友達の輪に戻っていった。
「……ねぇ、奏多」
「何?」
「奏多ってさ、日向君のこと、嫌いなの?」
そう聞くと、奏多が私のほうを見て目を見開く。
「それ、直で聞いてくるんだ。音羽って性格悪いね。やっぱり」
「……悪口?」
「全然。褒め言葉」
「どこが」
やっぱり、聞いちゃダメなことだったんだ。
でも、双子にコンプレックスがあるなんて、よくある話かな……?
「別に、答えなくていいけど。あんまり興味ないから」
「自分で聞いといて興味ないとか……傷つくわー」
棒読みでそう言う奏多。
むかつくな~……
「じゃ、部活行くから」
私は、奏多を置いて、音楽室に行く。
奏多って、この前も日向君の名前聞いて不機嫌になってたよね。
ただ単に嫌いってわけでもなさそうだけど、聞いてもどうせ教えてくれないんだろうなぁ。なんか奏多って、意外と秘密主義者かも。
悩みなさそうに見えても、人って何かしら悩み持ってるんだろうな……ま、それは本当に興味ないけど。
人に悩みがあるのは当然のことだし、むしろ悩みを持っていない人なんていないと思う。いたらその人を尊敬して生きていくと心に誓う。悩みなんてない様にふるまっている人でも、悩みはきっとある。だからそんなこといちいち気にしてたら疲れる。
大体、他人のことをいちいち気にして生きていくこと自体疲れることだと思う。もちろん気を遣うことは大切だと思うけど、みんなみたいに、周りに合わせて動くなんて、相当ストレスたまると思う。
そんなことを考えていると、音楽室の前に着いた。
でも、いつもならもうほとんどの人が来ている時間なのに、今日は誰もいない。まさか……
私は楽譜ケースに入れている吹部の予定表を出す。
すると、今日は職員会議があるから休みになっていた。
「……マジか」
四階までせっかく上がって来たのに……
まぁいいや。帰ろ。
私は、階段をとぼとぼ降り始める。
「…して……!あたし、何かした!?」
ビクッ。
三年生の教室の近くまで来たときに、そんな声が聞こえた。
喧嘩……?
そう思って、そっと三年生の教室の前まで行くと、三組の教室に、男子生徒と女子生徒一名ずつがいた。
私は、息を殺しながらその光景を盗み見る。
よく見るとそれは、美奈ちゃんと日向君だった。
「そういうんじゃなくて、別れたいから別れてって言ってるだけ」
「どうして……?私っ…日向君のこと、本当に…」
「あー…そういうの、ほんとにいいから。何て言うんだろ……重い」
日向君が、冷たい目をしながら美奈ちゃんにそう言う。
うわっ。最低。
そう思いながら見ていると、美奈ちゃんの目から、涙が溢れてきた。
でも、日向君は顔色一つ変えずに、美奈ちゃんを見つめている。
「だから、バイバイ。…あっ。次は戸津君とか狙ってみたら?あいつだったらちょろいから、きっと美奈でもすぐ落とせると思うし。ま、今あいつ神村さん狙ってるらしいけど」
日向君は、笑顔でそう言うと、泣いている美奈ちゃんを放って教室から出てきた。
私は、逃げるタイミングを失って、教室から出てきた日向君とばっちり目が合ってしまった。
うげっ。
日向君は、ニヤッと右の口角を上げて、私のことを見る。
「盗み見?趣味悪いね。神村さん」
「……あなた、最低だね」
日向君を睨みつけながらそう言うと、日向君はクスッと笑って両手をスラックスのポケットに突っ込む。
「ちょっと、ここから離れよっか」
そう言って歩き出す日向君。
「どこ行くの?」
「んー……図書室」
「どうして?」
「あそこだったら人こないし、ゆっくり話せるじゃん」
ゆっくり話したくないんだけど。
どうして私が日向君とゆっくり話さなくちゃいけないのよ。
「私、帰るので」
「そー言わずにさぁ」
うざい。
奏多よりこいつのほうが余裕でうざい。
「あの、ちょっとうざいです」
そう言うと、日向君はニコッと笑って私の腕をつかんだ。
「俺、女の子にうざいとか初めて言われた。やっぱり神村さんおもしろいね。俺と付き合ってよ」
……バカなの?今の流れでどうしてオッケイしてもらえると思ったの?
何を思って告白したの?受け入れてもらえると思ったの?すごい自信だな。
「いやです」
そう言うと日向君は目を少し細めて私の腕を引っ張る。
「ぅわっ……」
壁に押し付けられて両腕を顔の横で固定される。
「色気ない声出すよね」
そう言ってクスッと笑う日向君。
何なんだこいつ。
そう思いながらも私は何とか腕の拘束を解こうとする。
「無理だって。男の力にかなうわけないでしょ…?」
「えっ…ちょっと、離れてよ日向君…」
平静を保とうとがんばるけど…どうしよう…怖い———
日向君が私の足を見て少し笑う。
「震えてるじゃん。俺、怖い?」
頷くのも癪だから無言で日向君を睨みつける。
「あはは…神村さんさー、あいつのことどうやってたぶらかせたの?」
は…?あいつって…誰のことだ。
思わずしかめっ面になってしまう。
「あー…わかんないふりとかいいから」
めんどくさそうにそう言う日向君。
なんか…どんどんさっきの美奈ちゃんに対するような態度になってるような…
この人、二重人格なの?何なの?とりあえず離せよ。
「日向君の言ってることはよくわかんないけど……日向君は、私のことが嫌いなのにどうして関わってくるの?」
そう言うと、日向君は「え」と小さく声を漏らす。
日向君の手の力が一瞬緩まる。図星をつかれたからだと思う。
「おいっ!!何してっ……!!」
私と日向君の間に誰かが入ってくる。
日向君は両手をぶらぶらさせて私から少し離れる。
「なんだ…やっぱりたぶらかしてんじゃん」
日向君はそう呟いて私の目に立っているその人を見る。
「え…何で、奏多がここに」
私は、鬼のような形相の奏多の横顔を後ろから覗き込むようにして見る。
でも、奏多は私の声何て聞こえていないのか、ただ無言で日向君を睨みつけている。
ただ嫌いってわけじゃないんだろうな…日向君のこと。