「この前、3組の九条君に告白されちゃった」
「えーっ!あのモテモテのー?」
「うん」
「それで、どうしたの?」
「それはねー……」
「どうせ、OKしたんでしょ?」
「え……はい」
「理科のノート、出してください」
「う、うん」

 私は、ノートを受け取ると、教室を出る。
 3組の九条君こと九条 日向(くじょう ひなた)。
 この人には、私も告白されたことがある。それは、昨日のこと。
 九条君はいろんな人に告白している。あの子も、数ある女の子の中の一人なんだと思う。
 私はもちろん断ったけど。
コンコン。

「失礼します。3年3組の神村(かみむら)です。藤川(ふじかわ)先生いらっしゃいますか?」
「おぉ。神村。こっちだ」

 藤川先生は、理科の先生。
 ちなみに男。結婚してて、子供も二人いる。たしか、子供は二人共、もう一人立ちしている。
 おもしろいから、生徒からも好かれている。

「このプリント、みんなに返しておいてくれ」

 藤川先生が、私にプリントを渡してくる。
 理科係に頼めよ。
 と言いたくなるのをこらえて、ニコッと笑う。

「……わかりました」

 私は理科係じゃない。
 図書委員だ。
 私のクラスの理科係は働いてるのは見たことがない。つまり、理科係の代わりに私が仕事を押し付けられている。
 ちなみに、図書委員では書記をしている。これも、押し付けられた。
 私は、職員室を出て、ため息をつく。
 疲れる。

「神村さん!」
「……何ですか?」

 急に声をかけられて驚きつつ、冷静さを保つ。
 声をかけてきたのは、さっきの九条君に告白された子だ。

「どうしてさっき、告白OKしたってわかったの?」
「……はい?」

 おもわず聞き返してしまう。

「だって、あたし、神村さんと話したことないし……」

 この子、可愛いな。美少女って感じ。
 白い肌に、長い手足、大きな瞳はキラキラ光っている。少し茶髪っぽいけど、多分、地毛だと思う。この子、髪染めるような子じゃないから。

「……そんな事、聞いても意味ないと思うよ。じゃあ、私、プリント返さないといけないから」

 そう言って背を向けると、その子は私の腕を掴んだ。

「何」
「私にも、プリント配るの手伝わせてっ!」

 うざい。
 一言で言うと、うざい。

「プリント、配りたいんですか」
「え……う、うん」

 私は、その子にプリントを全部渡す。

「なら、どうぞ」

 軽く会釈して、教室に戻る。
 そして、席について、机から次の授業の教科書を出す。
 さっきの子が、純粋に私を助けようとしてくれたなら、理科係に注意してくれる方が嬉しかった。
 一緒にプリントを配るのは、面倒くさい。
 一人で配った方が早いし。

「ねぇ、神村さん。美奈(みな)は?」

 机の前に、女子が2、3名立っている。
 美奈って、誰?

「……あなた達が言う美奈ちゃんの事は、知らない」
「嘘よ!だって美奈は、あなたを追いかけていったもの!」

 そう言われて理解する。
 あのプリントの子か。

「その子なら、職員室の前で会いました」
「それで?」
「……プリントを配りたいと言ってたので、プリントを預けました」

 そこまで言った瞬間チャイムがなった。
 私の机に集まっていた人たちは、授業が始まるので自分の席に戻っていった。
 そして、美奈ちゃん?が教室に戻ってきた。
 プリント、ちゃんと配るよね?
 私は、美奈ちゃんを見つめる。すると、プリントを配り始めた。
 よかった。ちゃんと配ってくれて。あの子が配らないと、私が怒られる。
 そう思いながら、窓の外を見る。
 私の席は、窓際の後ろから二番目。
 天気がいい日は日の光が入ってきて気持ちいい。

「……暇だな」

 そう呟くと、後ろの席で吹き出す音が聞こえた。
 後ろを向くと、こちらを楽しそうに見つめている男子生徒がいる。

「暇なら、俺と遊ばない?」
「……遊びません」

 そう言って再び前を向くと、その人が私の肩を突いた。
 無視。無視。
 そう思って反応しないでいると、今度はサイドで一つに束ねている髪を引っ張ってきた。

「やめて」

 後ろを向いて言うと、その人は楽しそうにニヤッと笑って言った。

「今日、一緒に帰ってくれたらやめてあげる」
「……一人でどうぞ」
「何で?」
「じゃあ、逆に聞くけど、どうしてあなたと帰らないとダメなの?迷惑」
「神村さんは、俺と帰る義務がある」
「……は?」

 私は、眉を寄せてあからさまに嫌そうな顔をする。
 でも、いくら私でも誰これ構わず嫌そうにするわけじゃない。
 この人は、特別嫌い。
 大嫌い。
 この人を好きにならないと明日地球が滅ぶと言われても、絶対に好きにならない。
 この人の名前は九条 奏多(くじょう かなた)。
 九条 日向の双子の弟。でも、弟だからって理由で嫌っているわけじゃない。
 この弟、こいつも兄と一緒で、女好きなんだ。
 顔が似てて、女好きってところも一緒って……双子って、すごいな〜……。

「義務なんてないから」
「えー……ケチ」
「……今日も、女の子に一緒に帰ろうって誘われてたじゃない。その子たちと帰れば?」
「何?ヤキモチ?」
「……はっ。勝手に言ってろ」

 そう言ってもう一度前を向く。
 授業中に話して大丈夫なのかと思うが、私の学校は大丈夫。学校というか、クラス。
 私のクラスは、みんなうるさい。授業中なのにみんな話しまくる。
 先生に注意されても、一時はやめるけど、また話し始める。
 まぁ、みんなヤンキーってわけじゃない。元気なだけ。うん。きっと、そうだ。
 昔は、ガラスを割りまくったり、暴力事件を起こしたり、犯罪、いじめなどなどでいろいろしてたヤンキーがいたらしいけど、今はそんな事ない。
 すごく良くなったって、先生も言ってた。

「皆さんっ!静かにしなさい!!」

 先生の怒声が飛ぶ。
 でも、みんなギャーギャー騒いだままだ。
 バカじゃないの。

「ねぇ。神村さん」

 呆れていると、また後ろから声をかけられる。

「な、何?」
「みんなに静かにしてほしい?」

 机に突っ伏しながら聞いてくる九条君。

「そりゃあ……できる事なら」
「一緒に帰ってくれるなら、なんとかしてあげる」

 はぁ……!?
 まぁ、こいつらを静かにさせる事なんて、できないよね。

「……いいよ。静かにさせれたらね」

 そう言うと、九条君はニヤッと笑った。

「約束、守れよ」

 何こいつ。すっげー自信。