二週間後、私は一冊のノートをもっていつもの場所にいた。緊張や照れくささで、ただ座ってKを待つばかり。いつもはそんなに長く感じない時間も、1分が10分くらいに長く感じたわ。
Kはいつも通りの時間に、分厚いファイルを持って現れた。
「K。それって……」
「そ。これが俺の写真。まぁ、現像してるやつだけだけど」
それ以外はここ、と黒い長方形のバッグを開けて、一眼レフを取り出したK。
「いつも持っていたけど、カメラが入ってたんだね」
「ん。一種の精神安定剤みたいなもんだな、最早」
「ふふっ、ずいぶん重い薬だね。見ても、いい?」
「そのために持ってきた」
手渡してくれたファイルは見た目よりもずっと重くて、それだけKが写真が好きなことが分かった。
「わぁ……すごい。綺麗。素敵ね」
「……なんか、照れくせぇ」
Kの写真は、優しくて、温かい、綺麗な風景の写真が多かったけど、人をメインにした写真は、強くて、真っ直ぐで美しい写真だった。私はその写真を見て、思ったの。
「Kらしい、写真ね」
今ままで、写真を見ても「綺麗」だとか「すごい」と感じるばかりで、その写真が誰が撮ったかなんてわからなかった。同じ写真を違う人が撮っても、その違いが分からなかった。
でも、Kの写真は本当に『Kらしい』なって、思ったの。きっと、私はKの写真だけはほかの写真家さんと見分けられるかもしれない、そう考えてしまうほどに。
「同じ写真が何枚もあるのね」
「よく何度もプリントし直すんだ。彩度を変えたり、トリミングしたりして。一番上以外は大体失敗」
「これは? ぱっと見て同じようだけど」
「これ、よく見ると右端をトリミングして、彩度を一段階上げてる。でも、この写真は彩度を上げたらキツくて失敗」
「へぇー……。繊細なのね」
「そう。だから、1枚の作品のために十何枚もプリントしなおしたりする」
「大変ね」
「でも、写真を撮ってる次に楽しい」
Kは少年のようにキラキラした瞳で私と一緒に写真を見ていた。Kが楽しそうだと、私も楽しくて、Kの世界が垣間見ることができて嬉しくて、Kにもっともっと写真のことを教えてほしいと頼んだ。
「だったら、今度近くの海を撮りに行くから、ついてくる?」
「えっ、いいの……?」
「穂澄がいいなら。できればモデルになってほしい」
「モ、モデル!? 私、そんな大層なもの、できない」
「ポーズをとってほしいとか、そういうことじゃなくて。穂澄がいる風景を撮りたいから、自然体でいてくれ」
Kはそんなつもりはなかっただろうけど、私からすればそれは「デートのお誘い」だった。それがKの写真のモデルだなんてデートなんだかなんだか分からなかったけど、Kと二人きりで出かける機会なんてそうないから、承諾して約束をした。
「今度の土曜日、此処に9時に集合で。できればワンピースとか風になびく服を着てきてほしい」
そういわれて頷いた私は、Kと初めての外出に心躍らせていた。
そうして、すっかり忘れていた頃にKが私に手を突き出してきた。一瞬何を意味しているのか分からなくて、首をかしげると、Kはさらにずんと手を突き出して、言った。
「ほら、お前の番」
「あっ、忘れてた」
「おーい、しっかりしろよ、優等生」
「うっかりしてただけよ」
ぶり返してきた恥ずかしさと緊張で少しまごつきながらも、Kに私のノートを手渡した。
「『雀の涙を拾うとき』かぁ」
「目の前で読まれるのは心臓に悪すぎるから、家に帰ってからにしてほしいわ」
「やっぱ穂澄の字って、綺麗だな」
「な、なぁに」
「俺は字が下手だから、羨ましい」
「そんなことないよ」
「俺のノートみるか? 自分でも見れないぐらいの象形文字だ」
「あははっ、そんなに?」
「それは言いすぎた」
「う~ん、象形文字……だね」
「おいっ!」
こんな風に軽口を叩いて、笑いあった日は初めてで、Kとの距離が近くなっていることが実感できた。
Kはいつも通りの時間に、分厚いファイルを持って現れた。
「K。それって……」
「そ。これが俺の写真。まぁ、現像してるやつだけだけど」
それ以外はここ、と黒い長方形のバッグを開けて、一眼レフを取り出したK。
「いつも持っていたけど、カメラが入ってたんだね」
「ん。一種の精神安定剤みたいなもんだな、最早」
「ふふっ、ずいぶん重い薬だね。見ても、いい?」
「そのために持ってきた」
手渡してくれたファイルは見た目よりもずっと重くて、それだけKが写真が好きなことが分かった。
「わぁ……すごい。綺麗。素敵ね」
「……なんか、照れくせぇ」
Kの写真は、優しくて、温かい、綺麗な風景の写真が多かったけど、人をメインにした写真は、強くて、真っ直ぐで美しい写真だった。私はその写真を見て、思ったの。
「Kらしい、写真ね」
今ままで、写真を見ても「綺麗」だとか「すごい」と感じるばかりで、その写真が誰が撮ったかなんてわからなかった。同じ写真を違う人が撮っても、その違いが分からなかった。
でも、Kの写真は本当に『Kらしい』なって、思ったの。きっと、私はKの写真だけはほかの写真家さんと見分けられるかもしれない、そう考えてしまうほどに。
「同じ写真が何枚もあるのね」
「よく何度もプリントし直すんだ。彩度を変えたり、トリミングしたりして。一番上以外は大体失敗」
「これは? ぱっと見て同じようだけど」
「これ、よく見ると右端をトリミングして、彩度を一段階上げてる。でも、この写真は彩度を上げたらキツくて失敗」
「へぇー……。繊細なのね」
「そう。だから、1枚の作品のために十何枚もプリントしなおしたりする」
「大変ね」
「でも、写真を撮ってる次に楽しい」
Kは少年のようにキラキラした瞳で私と一緒に写真を見ていた。Kが楽しそうだと、私も楽しくて、Kの世界が垣間見ることができて嬉しくて、Kにもっともっと写真のことを教えてほしいと頼んだ。
「だったら、今度近くの海を撮りに行くから、ついてくる?」
「えっ、いいの……?」
「穂澄がいいなら。できればモデルになってほしい」
「モ、モデル!? 私、そんな大層なもの、できない」
「ポーズをとってほしいとか、そういうことじゃなくて。穂澄がいる風景を撮りたいから、自然体でいてくれ」
Kはそんなつもりはなかっただろうけど、私からすればそれは「デートのお誘い」だった。それがKの写真のモデルだなんてデートなんだかなんだか分からなかったけど、Kと二人きりで出かける機会なんてそうないから、承諾して約束をした。
「今度の土曜日、此処に9時に集合で。できればワンピースとか風になびく服を着てきてほしい」
そういわれて頷いた私は、Kと初めての外出に心躍らせていた。
そうして、すっかり忘れていた頃にKが私に手を突き出してきた。一瞬何を意味しているのか分からなくて、首をかしげると、Kはさらにずんと手を突き出して、言った。
「ほら、お前の番」
「あっ、忘れてた」
「おーい、しっかりしろよ、優等生」
「うっかりしてただけよ」
ぶり返してきた恥ずかしさと緊張で少しまごつきながらも、Kに私のノートを手渡した。
「『雀の涙を拾うとき』かぁ」
「目の前で読まれるのは心臓に悪すぎるから、家に帰ってからにしてほしいわ」
「やっぱ穂澄の字って、綺麗だな」
「な、なぁに」
「俺は字が下手だから、羨ましい」
「そんなことないよ」
「俺のノートみるか? 自分でも見れないぐらいの象形文字だ」
「あははっ、そんなに?」
「それは言いすぎた」
「う~ん、象形文字……だね」
「おいっ!」
こんな風に軽口を叩いて、笑いあった日は初めてで、Kとの距離が近くなっていることが実感できた。


