「捕獲っ」
だから、逃げも隠れもしないから。
そもそもの話岡崎が俺とそこそこの仲でなければこんなことにはならなかったはずだ。小学校、中学校、そして高校と何かと腐れ縁の岡崎莉香。「莉香」とはほど遠いゴリラという印象でしかない。ちなみに今では岡崎と呼んでいたが昔は莉香ちゃんと呼んでいた。えぇ、呼んでましたよ。俺にもそんな時期くらいありました。忘れたい過去です。
…そんでもって俺を裏切った課題男が中学から一緒で中学三年間クラスが一緒の岩瀬涼。こいつもこいつで腐れ縁。今年も同じクラスになってしまった。岩瀬はまだしも岡崎も同じクラスは無いだろ神様。
その2人に腕をつかまれて寄り道まっしぐらであるが、ここでふと思う。
岩瀬がここにいる意味だ。岡崎は二千歩譲ってまだわかる。だがこいつに奢る意味とはなんだろう?当たり前のようについてこないでほしい。
「お前なんでいるの。」
「うわ。聖君ひどぉい」
「気持ち悪いから日高って呼んでくれない?」
「えー。」
「俺、名前あんまり好きじゃない。」
そう言うと岩瀬は黙る。初めて会ったときに聖と呼んで以来、俺が嫌だったので日高と呼ばせている。苗字の方が安心するのだ。
聖とかいて(ひじり)。聖の意味としては徳が高くて崇められる人。親は俺にどうなってほしいんだ。崇められる人になりたいと思ったことはないが今は思う。
「でも日高聖ってすごい良い名前だよ。日が高く、徳も高く、って感じ」
岡崎がヘラヘラと喋る。地毛のダークブラウンの髪から柑橘系の香りがした。
「じゃあ崇めてくれない?」
「やーだ」
半分諦めて歩き出す。なにを奢らせるのやら。早く帰って寝たい。
「よし!今日はドーナツって気分!ドーナツ食べよ!」
「いいね岡崎ちゃん!」
「岩瀬くん距離感じる~莉香でいいよぅ~」
「いえええいっ莉香!」
「よっしゃぁ!涼!」
テンションについていけず、空の色を反射したような親友と幼なじみの背中を追いかけた。
「オールドファッションとぉ。ポンデとぉ。あと、」
「待って買いすぎ。俺今月ピンチなの」
「あ、アップルパイで」
話聞いてください。
「かしこまりましたぁ」
おい店員ぶっとばすぞ。お前が軽く投下した爆弾により俺の財布が死ぬんだぞ。