「え……?」

「佐々木さん、傘を持っていかれたって言っていたよね?」

「うん。けど……どうして?」

どうして持っていかれたはずの傘が落とし物箱の中にいれられていたんだろう?

普通パクッた傘なんて返したりしないだろう。

傘が邪魔になって校内のどこかに捨てたのだろうか?

いや、それはないか。
だって私の傘には名前が書いてある。

拾った人がいれば、わざわざあの汚い箱に入れに行くより、私に届けるか、傘立てに戻した方が早い気がする。

私の言いたい事を察したのだろう。

私の疑問に小澤くんは自分の考えを口にする。

「名前が書いてあったから持っていった人も良心が痛んだんじゃないかな」

「そうかもしれない……」

「本当は持ってきて佐々木さんに渡そうかとも思ったんだけど、教室で傘なんか渡されても迷惑かと思って……後で取りに行けばいいよ」

「…うん。そうする。ありがとう」

小澤くんの優しさが嬉しかった。

胸のあたりがポカポカとあたたかくなっていくのが分かる。

この人を好きになって本当に良かったと心から思った。

「どういたしまして」

にっこり笑って私から離れていく小澤くんの背中は広かった。

男の子らしい成長期の背中に私は意味もなくドキドキしながら抱きつきたくなる衝動を抑えるのに苦労した。