ざわめく教室。

浮き足立つクラスメート達。

小澤くんはそんな状況など気にならないかのように自然な様子で私の前に立っていた。

「佐々木さん、ちょっといいかな?」

大好きな人に声をかけられて私は息を止めた。

心臓が鼓動を痛いほど激しく刻む。

小澤くんはそんな私の気持ちには気付いていない。

「な、なに?」

二時間目の休み時間が始まってすぐに小澤くんは私に声をかけてきた。

小澤くんが目の前にいて、私に話しかけている……。

その事実は教室のざわめきやクラスメートの視線も全く気にならないほど私の気持ちを高揚させた。

「職員室の前に落とし物が入った箱があるんだけど、知ってる?」

「あ、うん」

小澤くんの言っている箱の存在に私はすぐに思い当たった。

確かに職員室の前には校内で落ちていた落とし物を入れた箱が放置してある。

おそらく拾った生徒が気軽にそこに入れられるように……そして落とした生徒にもそれが分かるようにという配慮からなのだろう。

が、しかし、落とし物の箱には恐ろしく汚い靴下やら、こんなの誰も使えないだろうといった泥まみれの軍手などが入れられているのが現実だった。

「そこに佐々木さんの傘が入っているよ」