初恋のクローバー



ガララと、ドアが開いていく音が響く。


「…………」


ここを出たら、次に会ういつかの日まで和哉くんの顔を見ることはできない。


振り返りたい。


さっきまで見ていた彼の顔を、もう一度見つめたい。


重ねていた彼の手の体温を、まだ感じていたい。


「………またね」


「……うん」


全てを飲み込んで、もう3度目の挨拶を交わす。


そして私は、ゆっくりと病室から出た。


「……っ、ふ……うぅ……っう、……」


人気のない真っ白な廊下に、押し殺した声が反響する。


完全に閉まったドアを背に、私はその場にズルズルと座り込んだ。


「ど、しよ……っ……」


和哉くんが、もう走らない。


歩くことさえ、諦めている。


あんなに陸上が大好きだった人が、走るために頑張ることを怖いと言っている。


先の見えない未来のために頑張ることに、意味を見いだせないでいる。


「…か、ずや…くん……和哉、くん……和哉くんっ…」


無力な私は、どうすることもできない。


こうやってただ、彼の不幸を嘆くことしかできない。


こうやってただ、彼の名前を呼ぶことしかできない。


無力な私には、何もできない。