「だって、カッコ悪いでしょ?
ずっと憧れてた女の子が、同じように俺を憧れに思ってくれてた。
それなのに、俺は自分のせいでもう走れないかもしれない、なんて……幻滅するに決まってる」
「そんなこと…っ」
「自分が嫌になる……俺の走りを好きだって言ってくれた風結に、どんな顔をして伝えればいいのかわからなかった」
「だから……」
だから、電話してくれなかったの?
続く言葉を口にできないで彼を見つめると、和哉くんは肯定だというように悲しそうな笑みをこぼす。
「っ、」
「手術をしても、リハビリには半年以上かかる。それにもしかしたら、手術をしても走れないかもしれない。
…復帰できても、3年のインターハイに万全の状態で挑めるかどうか」
「………」
彼の口から自嘲気味に発せられるその言葉が、私の心に痛く突き刺さる。
「だから手術は、するつもりはないんだ」
「え…っ!?」
「ははっ…これ、誰かに言ったの初めてだ」
「そんな……そんなの、ダメだよっ……」
整理しきれない情報を、脳が鈍った働きで処理していく。
高校陸上の最後の舞台に、間に合わないかもしれない。
最悪、選手生命が終わるかもしれない。
だから手術は、しない。



