走ることが好きだった。
流れていく景色を見ることが好きだった。
風の息吹を感じることが好きだった。
ただ走ることが、好きだった。
でもいつからか、そんな気持ちを忘れてしまっていた。
速く走らないと。
もっと速く。
みんなに置いていかれないように。
走る意味が気づいたら変わっていて、大好きな陸上が息苦しく感じた。
本当はそんなこと、意味がなかったのに。
ただ好きなことを、やりたいだけなんだ。
私はただ、走り続けたいだけなんだ。
周りばかりを気にして真剣に陸上に向き合っていなかった私は、ただそれだけを思っていたあの頃の私を忘れてしまっていた。
「……走りたい」
気づけばそう呟いていた。
「え?」
「あ、ううんっ。私が和哉くんの憧れになれてたなんて嬉しくって……」
「……うん」
照れくさく思って頬をかきながら言えば、彼はまた不似合いな笑顔を作った。
「ずっと憧れだった。ずっと理想だった。
……だから、風結には病気のことを知られたくなかった」
「え……?」
どういうこと……?



