「前に電話で、言ってくれたよね。俺の走りは風結の憧れで、理想だって……」
「うん…言ったよ?」
「それを聞いた時、本当に嬉しかったんだ。ずっと憧れてた女の子に、頑張ってきた自分を認めてもらえた…ちゃんと見てもらえたんだ、って思った」
「憧れ……?」
それって、私のこと……?
和哉くんは穏やかな笑みで天を仰ぎ見ると、思い出すように言葉を紡いでいく。
「……俺は、変わらない毎日に走る意味を失ってた。でも全国大会で走っていたあの時の風結が、そんな俺を変えてくれた」
「うん……」
しっかりと覚えてる。
和哉くんが告白してくれたあの日に言ってくれた言葉。
彼のその言葉で、私は自分の陸上が無駄ではなかったことを知ることができた。
「人の心を変えるなんて、簡単にはできないと思う。でもあの時の風結は、ただ走ることが好きなんだ……走ることが楽しいんだって、全身で伝えてた」
「……!」
「そんな風結を見たら、自分がすごくちっぽけに思えたんだ。走る意味ばかり考えて、自分を見失ってた……。
俺はただ、陸上が好きなんだ。
風結みたいに走りたいだけなんだ。
風結の走りを見て、そう思うことができたんだ」
「っ……」
止まっていた時間が、動き出す音がする。



