「っ……そっかっ!和哉くんのきっかけになったなんて、その女の子が知ったらきっと喜ぶだろうね」
「……じゃあ」
ひきつりそうになる口を必死に取り繕いながら返せば、彼はニッコリと笑って言った。
「風結は今、喜んでくれてる?」
「……え?」
突然の一言に頭が追いつかなくて、開いた口が塞がらない。
「風結のことだよ。中学の時に俺に走る意味を思い出させてくれたのも、今の俺をつくってくれたのも、全部風結なんだ。
このお守りを見て確信したよ。一つ葉のクローバーなんて中々見ないからね」
「うそ……」
「ずっと、お礼が言いたかったんだ。
……ありがとう、風結」
「っ、」
口元にあてていた手に、生暖かい水の感触が訪れる。
私の走りが、誰かの力になっていたなんて。
私の走りを覚えてくれている人がいたなんて。
私の陸上は、ちゃんと意味があるものだった。
私の陸上は、無駄なんかじゃなかったんだ。
「私も、ありがとう……ありがとう、和哉くん」
「………風結」
「なに…?」
涙で揺れる視界を指で拭って、私を呼んだ彼を見上げる。
「……っ」
彼の穏やかな笑みでありながらも真剣な瞳が、私の胸を熱くさせた。



