メモの一番最後に書かれていたのは、今日自覚した自分の気持ちそのもの。
「っ、」
『初恋』の二文字に、私はあっという間に自分の頬が上気していくのを感じた。
「…………」
「……あ、えっと………」
ど、どうしよう……なんか変な空気になっちゃった……。
なんとなく気まずい雰囲気になった私たちの間を、澄んだ空気が渡っていく。
数秒だったのか、数分だったのか。
長く感じられた静寂を破ったのは、彼の方だった。
「……俺が中学の時の話は、前に電話でしたよね?」
「!……う、うん」
顔を上げて彼を見ると、その口元は綺麗な弧を描いていた。
「俺の中学は部員も少なくて、コーチもいなかった。次第に部員は減って言って、陸上部はいつしか俺1人になってたんだ」
「1人……」
1人でずっと、走り続けていたの?
「毎日グラウンドの隅で1人で走ってた……いつかこの環境も変わってくれるだろうって信じてた……でも、変わらなかった。気づけば俺は、走り続けることに意味を見いだせなくなってた」
「…………」
「でも、そんな時……俺はある女の子に出会ったんだ」
「女の子……?」
「彼女は全国陸上大会で走ってた。
彼女の走りに、俺はまた走る意味を思い出せたんだ」
「全国……」
走る意味を与えるなんて……。
きっと見惚れるくらい速い走りをする女の子なんだろうな…。
「彼女がいたから、今の俺があるんだ」
「…………」
嬉しそうに、本当に嬉しそうに微笑んだ彼に、私は自分の胸が痛みを訴えたように感じた。



