言葉を、失った。
もっと速いとは思っていた。
本当の走りが、インターハイの走りなんかとは比べものにならないこともわかっていた。
でも、それでも、
初めて見た彼の本当の姿に、私は圧倒されたんだ。
「和哉くん……」
やっと出た自分の声は、震えていた。
それが和哉くんの本当の姿なんだね……。
風を切るような、強い走り。
他の走者も速いはずなのに、彼の走りだけがまるで重力を持っていないように感じられた。
綺麗なフォームで、飛ぶように軽やかなステップで地を蹴る。
あぁ、悔しいな……。
私の理想の走りだった。
私はこんなふうに走りたかったんだ。
インターハイの日に、私は彼に魅せられた。
彼の陸上の才能と、ひたむきな努力に、ただただ惹かれた。
そして今日。
彼の言葉と、本当の走りに、また魅了された。
彼の言葉が、彼の姿が、私の心を暖かくしてくれる。
私に新しい感情を与えてくれる。
「………好き」
瞳から流れ落ちたしずくとともに、私は気づけば笑みをこぼしていた。



