「あと少しで予選……」
前の競技を観覧席からぼーっと見ながら、彼のことを思い出す。
「和哉くん……」
彼のプレッシャーを少しでも和らげようと思って来たはずなのに、逆に私が励まされちゃったなぁ……でも……
自分の不甲斐なさを恥ずかしく思いながらも、さっきの彼の言葉が私の気持ちを軽くしてくれる。
「……ふふっ」
同時に胸に暖かいものが溢れてきて、私は無意識に笑みをこぼした。
彼のことを思うだけで、
彼の声を思い出すだけで、
自分の心の中で甘酸っぱい気持ちが踊る。
部活をやめたあと、ミヨに少女漫画を借りた。
でも今まで陸上一筋で初恋もまだだった私は、恋する女の子の気持ちがイマイチ理解できなかった。
あのヒロインたちはこんな気持ちだったのかな……。
今抱いているこの感情の答えを、私はもう知っている。
「そういえばあのクローバーの意味、全部で4つあったっけ。困難に打ち勝つ、開拓、始まり……あれ?もう1つってなんだっけ…?」
なんだったかな……私には関係ないって思って気にしてなかったんだっけ……。
うーんと考えてみるけど、頭の中のメモは1番下の字を完全に消していた。
「むぅ………あっ、前の競技終わったっ」
そして今、新たなスタートが切り開かれる。



