初恋のクローバー



男子800メートル走は予選、準決勝、決勝と勝ち進まなければいけない。


全部で3試合。
一度でも負けたら、先には進めない。


俺は残れるのかな……。


上げていた顔を俯かせて自分の手を見れば、
その手は震えをおこしていなかった。


『困難に打ち勝って、新しいスタートを切り開こうっ!』


「風結は凄いなぁ……」


気づけば笑っていた。


彼女の言葉が、俺に力をくれる。


プレッシャーになっていた周りからの期待は、それ以上に大きい彼女のまっすぐな応援に
どこかへ飛んでいってしまったようだ。


「和哉、行くぞ」


「あ、うん………、」


先に出て行くガクに返事をして俺も持っていたメモを閉じようとすると、一番下の文字に目が止まった。


「初恋…………」


ポツリと呟けば、胸の中に暖かな感情が溢れてくる。


この気持ちはきっと……。


「伝えるためにも、情けない走りを見せるわけにはいかないな」


俺はお守りに丁寧に紙を閉まってから、力強い足取りで部屋を出て行った。