「和哉ー!もうすぐ試合始まるから中行くぞ!」


「あ、うん。わかった!」


遠くから手を振って背中を向けた和哉くんの部活仲間を見ながら、私は彼に尋ねる。


「今の、ガクくん?」


「そうだよ」


「やっぱり。最初に和哉くんと会った時も、ガクくんが呼びに来てたよね。聞いてた通り、しっかりしてる感じの人」


「あはは、うん。…じゃあ俺、行ってくるね」


「うん……あっ、待って!」


「?」


会場に入って行こうとする和哉くんを慌てて呼び止めてから、私はカバンからあるものを取って差し出す。


「これも持っていって!」


「……!これ……」


「私の手作りレモンのはちみつ漬け!
前に食べさせてあげる、って言ったから」


両手で持った小さなパックを受け取ると、彼は嬉しそうに笑みをこぼした。


「ありがとう」


「これとお守りだけで和哉くんがプレッシャーから解放されるなんて思ってないけど………
困難に打ち勝って、新しいスタートを切り開こうっ!」


「……うん、頑張るよ。行ってくる」


「行ってらっしゃい!」


会場に入って行く彼の後ろ姿を見つめながら、私は彼の笑顔を祈るのだった。