「…………────なの?」


ボソッと、彼の言葉が紡がれる。


「え……?」


聞き取れなくて顔を上げれば、彼の目がまっすぐに私を捕らえていた。


「逃げることが、悪いことなの?」


「っ、」


今度ははっきりと届いた、彼の穏やかな声。


「俺も、中学の時に逃げそうになったことがあったよ。でも、心の支えがあったからこれまでやってこれた」


「心の支え……?」


「うん……風結が陸上を大好きなことは知ってる。走ることが苦しくなる辛さは、俺も経験してわかってる。だから、逃げることが悪いことだとは、俺は思わないよ」


「……っ」


「ずっと、頑張ってたんだね。
……風結は俺とは違うって言ったけど、俺はそうは思わない。同じ道を歩んでいて、同じように必死だった……。
風結の頑張りは、俺がわかってるよ」


「……ふ……っ、」


彼の微笑みが、彼の優しい声が、
私の心を軽くしてくれる。