考えたってわかるはずもなく、砂川くんを見上げた。
すると、砂川くんが慌てたように私を掴んでいた手をぱっと離す。
「ごめん」
「……ううん」
気まずそうに謝る砂川くんに首を振った。
すると、しん、と沈黙が訪れて。
一呼吸置いてから、また沈黙を破ったのも砂川くんだった。
「あのさ」
砂川くんの真っ直ぐな視線が、迷いなく私を 捉えて。
「誕生日、おめでとう」
真っ直ぐな声が私の耳に届く。
届いた声が胸の奥でしゅわりと溶けた。
「……うそ」
私は夢でも見ているのかもしれない。
じゃなきゃ、おかしいもん。
誰かに『おめでとう』と祝ってもらうことに密かに憧れてた。
『誕生日、おめでとう』
こんな幸せなこと夢じゃなきゃ起こらない、はずだった。
「桜庭さん、手出して」
だけど砂川くんの声がほんものだから。
目の前にいる砂川くんが、手首に残る掴まれた感触が、ほんものだから。
これは都合のいい夢なんかじゃなくて、紛れもなく、現実らしい。



