とにかく逃げなきゃ。


そう思うのに、どうすればいいかがわからなくて体が竦む。





「あのっ、ごめんなさ……」


「んー?聞こえなーい」



「っ、痛……っ」






身をよじったところで逆効果で、
より強い力で腕を引っ張られてしまう。



この場から離れてしまったら、きっともうどうにもならないってことは、さすがの私でもわかるから、

なんとか震える足に力を入れて踏みとどまっているけれど。





「大人しくしてくれれば、痛いことはしないのにね」



「従順な子だと思ったのに勘違いだったかな」



かけられる言葉のひとつひとつに、じわりと嫌な汗が滲む。


怖くて、こわくて、
唇をぎゅっと噛み締めた。



この期に及んで声も上げられない、助けのひとつも呼ぶことができない無力で弱い自分自身に嫌気がさす。






「ふふ、イヤイヤって首振って強請る姿もイイけれど、そろそろ本気で連れていくつもりだからね」





気持ちのわるい猫なで声に、ぞくりと背中に悪寒が走った。




と同時に、これまでとは比べ物にならないほどの強い力で腕を引かれて。



その場に踏ん張る足ももう限界。

大人の男の人の本気の力に敵うわけがなかった。





このまま連れていかれたら、どうなってしまうんだろう。

想像したくない、だけど想像できてしまって。




人通りの少ない路地裏を、何にも考えず呑気に歩いていた私が悪いんだ。今更気づいたって遅くて、後悔先立たずとはこのこと。


私はいつも、後悔ばかりしている気がする。



情けないな、本当に。




……もっと私がしっかりしていれば、強ければ、こんなことに巻き込まれてなんていなかったんだ。きっと。