素直になれない、金曜日


重なり合ったふたつの体温が混ざり合う感覚に酔いしれて。


……どれほどの間、そうしていただろうか。




酸素を失って、目の端に涙を滲ませている桜庭さんの姿に気づいて、ようやく唇を離した。


力が抜けたのか、くたりと俺の胸に身体を預けた桜庭さんからとくとく、と規則正しい鼓動が伝わってきて。




「……えへへ」




桜庭さんは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべた。




「……はじめて?」




そういうの、ぜんぶ
桜庭さんの最初が欲しくてそう聞けば。




「に、二回目……だよ」


「は?」




予想外の回答に、意図せず低い声が漏れた。

思わず眉を顰める。




一回目って、いつ。誰と?

まさか、深見先輩と────────




眉をひそめてあれこれと思い巡らせる俺に、桜庭さんの控えめな声が降り注いだ。




「はじめても二回目も、どっちも砂川くんだけど」


「え?」



「……ふたりで買い出しに行った日に、電車で」





桜庭さんの言葉で、鮮明に甦った記憶。




「……砂川くんは忘れちゃっているかもしれないけれど」