心の中でため息を零していると、桜庭さんが急に距離を詰めてきた。
あと少し動けば触れそうな距離。
桜庭さんから女の子特有の甘い香りが漂って、ぐらりと思考回路が危うく揺らいだ。
「昨日も会ったのに、こんなこと言うのすっごく変、だけど」
「……?」
「砂川くんに、会いたかった、よ」
熟れたりんごみたいに紅く染まった頬が、熱の篭った声が、甘えるような視線が、
桜庭さんの全部が俺を焚きつける。
ぎりぎりのところで張り詰めていた理性の糸が、ぷつりと切れた音がした。
こんな近い距離で、そんな煽るようなこと言われて、我慢、できるわけがない。
『────えー、ただいまより毎年恒例、後夜祭の打ち上げ花火を─────』
校内放送で流れる生徒会長のアナウンスも、最早ただのBGMにすぎなくて。
目の前の柔らかそうな彼女の頬に手を伸ばした。
手の甲でするり、と一撫でして首を傾げる。
「……いい?」
それだけで、なんのことか理解したのか、桜庭さんが一層頬を赤らめてこくり、と小さく頷いた。
無意識のうちに、ふっと微笑んで彼女の柔らかな頬に手を添えて持ち上げて。
吸い寄せられるように、唇を重ねた。



