素直になれない、金曜日


心の中でため息を零していると、桜庭さんが急に距離を詰めてきた。


あと少し動けば触れそうな距離。



桜庭さんから女の子特有の甘い香りが漂って、ぐらりと思考回路が危うく揺らいだ。





「昨日も会ったのに、こんなこと言うのすっごく変、だけど」



「……?」




「砂川くんに、会いたかった、よ」




熟れたりんごみたいに紅く染まった頬が、熱の篭った声が、甘えるような視線が、

桜庭さんの全部が俺を焚きつける。




ぎりぎりのところで張り詰めていた理性の糸が、ぷつりと切れた音がした。



こんな近い距離で、そんな煽るようなこと言われて、我慢、できるわけがない。




『────えー、ただいまより毎年恒例、後夜祭の打ち上げ花火を─────』




校内放送で流れる生徒会長のアナウンスも、最早ただのBGMにすぎなくて。





目の前の柔らかそうな彼女の頬に手を伸ばした。

手の甲でするり、と一撫でして首を傾げる。





「……いい?」





それだけで、なんのことか理解したのか、桜庭さんが一層頬を赤らめてこくり、と小さく頷いた。



無意識のうちに、ふっと微笑んで彼女の柔らかな頬に手を添えて持ち上げて。






吸い寄せられるように、唇を重ねた。