桜庭さんがふと口を開いた。
きゅ、と制服のスカートの裾を掴む、その仕草に俺になにか伝えようとしているのだろうと予測して耳を傾けると。
「今日……ずっとね、砂川くんのこと、考えてたんだよ」
予想もしていなかった桜庭さんの台詞に、心臓が途端にうるさくなった。
「みんなといても、頭の中から砂川くんがはなれてくれなくて」
「っ、」
やば。
……これはもう、何つーか。
ごくり、と唾を呑む。
「ほんとに、す……好きだなって思って」
恥ずかしそうに、でもはっきりと口にした桜庭さん。
直視なんてできるわけがなく、不自然に視線を逸らしたあと。
照れ隠しの代わりに、軽く桜庭さんを睨む。
俺のこと、どこまで理性の働く奴だと思ってるか知らねえけど、
今のは普通に……効いた。
「……心の準備できてないときに、そういうこと言わないで」
目を伏せて、浅く息を逃がして。
心を落ち着かせようとしている俺の努力なんか知る由もない桜庭さんが。
「これからは……ちゃんと、思ったこと伝えたいって思ったから」
「……」
別に嫌じゃないけれど。
でも、困る。
こんなふうに突然素直になられたら俺の心臓が幾つあったって保たない。
そんなはずないとは思うけれど、たまに確信犯なんじゃないかと疑ってしまうほどで。
────さらに、確信犯でもいいや、なんて思うくらいには重症だ。



