歩いている路地の少し向こうから聞こえたような気がする。

嫌な胸騒ぎに無意識に眉を顰めて、歩調を僅かに速めた。




────嫌な予感というのは、的中してしまうものだ。





足早に歩いたその先で視界に飛び込んできたのは。




「あのっ、ごめんなさ……」


「んー?聞こえなーい」



「っ、痛……っ」




同じ年くらいの女の子と、
その手首を無造作に掴む中年の男。



首を振って抵抗する女子高生と、怪しげに微笑を浮かべている中年男のコントラストはどう考えたって、これが危ない状況であることを示していた。




「ふふ、イヤイヤって首振って強請る姿もイイけれど、そろそろ本気で連れていくつもりだからね」




気持ちの悪い、猫なで声。

男の俺でも鳥肌が立つほどだから、目の前にいるあの子はいったいどれほどの恐怖を────。




だからといって、下手に今俺が手を出して相手を刺激してしまうと大事になりかねない。


どうしたものか、と目を見張っていると。





男が女の子の腕を強引に引いた。

ぐらりと女の子の身体が傾く。




白くて細いその身体は、儚くて今にも消えてしまいそうで。

ずるずると引きずられたその一瞬、ちらりと覗いた彼女の表情が何かを諦めたように空虚で、その脆さを目の当たりにして。




居てもたってもいられなくなった。