数十分程経って、ステージ発表が始まったからか、ようやく客足が途絶える。

目まぐるしいほどの忙しさから解放されて、ほっと息をついた。



「桜庭さん、お客さん今いない?」



備え付けの簡易キッチンの方から、砂川くんがひょこ、と顔を覗かせる。

そう、朝一のシフトはちょうど砂川くんと被っていたの。



────もちろん、砂川くんは調理の担当だけど。





「うん、今ちょうど途絶えてるよ」




そう答えると、砂川くんが疲れたように肩を回しながら表に出てきた。

そして、椅子に腰を下ろす。




「おつかれさま」

「それを言うなら桜庭さんも、でしょ」




ううん、と私は首を振る。

どう考えたって、ひとりで調理をこなしている砂川くんの方が大変だもの。



ふたりでふう、と息をつく。



やっぱりまだ砂川くんとの間に流れる空気はどこかぎこちなく感じる。




「……あの、砂川くん」




生まれた沈黙を破ったのは、私の方で。

砂川くんにお願いがあって、それを言わなきゃと思っていたのに。

朝からの準備のとき、あと少しの勇気が出なくてずるずると先延ばしにしてしまっていたら、シフトがはじまってしまって。