私の身体を包み込んだのは、ひんやりした床の感触と痛み─────じゃなくて、人の腕の感触と、シトラスの香り。


驚いて、目を見開くと。




「砂川くん……っ」

「目え離した隙にこれだから、桜庭さんってほんと危なっかしい」



呆れたように目を細める砂川くんだけど、その声色が柔らかい。



「お願いだから気をつけて。あと高いところは俺がやるから言ってよ」



本当に心配そうに見つめられて、胸がきゅうっとなった。



「……ありがとう」

「どういたしまして」




砂川くんが、口角を緩く上げた。



砂川くんが、笑っている。

いつぶりかわからないほど久しぶりに見た、砂川くんの笑顔に頭の中が沸騰しそうにおかしくなる。




だめだ、もう。
こんなの。



「……桜庭さんが怪我したらって、心臓とまるかと思った」



優しい顔して、柔らかい笑顔を浮かべて、そんなことを言って見つめられたら。




「砂川くん」

「ん……?」