「とも、だち?」



首を傾げた彼女がきょとん、とした表情でこちらを見る。

彼女の純粋に戸惑った顔は珍しい。



「うん。私、榎木さ─────あ、由良ちゃんと友達になってみたかったんだ」



由良ちゃん。
やっばりまだその呼び方には慣れないなあ。




「ひよって、馬鹿なの?」

「え?」



至極真面目な顔で 私を “馬鹿” 呼ばわりしたあと、由良ちゃんは。



「私、本当にひよのこと嫌いだったんだよ? ひよがどう思うとか別として、酷いことをした自覚もある」


「でも、今の由良ちゃんは違うでしょ? それに、大切な話を私に分けてもいいと思ってくれたんでしょ?」


「……」


「私は由良ちゃんと仲良くなりたいって、思うんだよ」



真っ直ぐに瞳を見つめながら言うと、由良ちゃんは根負けしたように肩を竦めた。




「……仕方ないから、頷いてあげる」


「え……?」


「友達になってあげてもいいって言ってるの!」



つん、とそっぽを向いた由良ちゃんの耳は真っ赤で。

だけど、差し出した右手をしっかりと握った彼女の手のひらに、頬が緩んだ。



「よろしくね」



そう言うと、由良ちゃんも呆れたように、でもどこか嬉しそうに笑ってくれた。



────由良ちゃんと私は、絶対的に住む世界が違うんだと勝手に決めつけていた。

由良ちゃんたちのいるきらきらした世界には、私の入る余地なんてないと思っていた。



だけど、簡単なことだったんだ。
一歩踏み出せばそこは、もう同じ世界だったのに。

どうしてそんなこともわからなかったんだろう。


今更ながら、少し前までの自分の世界の狭さを思い知る。